薬を使わない不眠治療「認知行動療法」とは、日本では保険診療外だが欧米では最初の選択肢
患者を寝床に向かわせない
睡眠制限法の眼目は「実質的に眠れている睡眠時間に合わせて寝床にいる時間を切り詰める」、言い換えれば「寝床で目が覚めている時間をできるだけ短くする」点にある。具体的には、不眠障害患者にしばしば見られる非効率的な3つの寝方である「早寝(早い時刻での就床)」「長寝(長い床上時間)」「昼寝」を避けるように指導する。 眠れなくて困っている患者を寝床に向かわせないとは何事だと思われるかもしれないが、これにはちゃんとした理由がある。 不眠で悩んでいると早くに疲れを覚える。中高年だと夕食を終えた頃から気だるくなり、21時前に寝床に横になってしまうことが少なくない。しかしそのような早寝をしても深部体温(脳温)はまだ十分に低下しておらず、催眠作用のあるメラトニンの分泌も始まっていないなど質の良い睡眠を取るコンディションが整っていない。 そのためいったん寝ついても睡眠が持続しにくい。「21時頃に早寝をしても0時前に目覚める」「なんとか二度寝をしても1、2時間もすれば中途覚醒する」など睡眠が細切れになってしまうのである。 また早寝は長寝につながる。「長く横になっていれば睡眠時間が少しは伸びるのではないか」と期待してしまい、早寝をしても早起きをしないためである。しかしこのような就床行動は不眠症を悪化させることが臨床研究から明らかになっている。 例えば21時前に早寝をして朝6時頃まで寝床にいると9時間以上となる。不眠症患者の多くは50代以降で、この年代では健康な人でも睡眠時間は平均7時間を下回っている。不眠症患者ともなると6時間以下となることが大部分なのに、9時間も寝床にいたらどうなるだろうか。 答えは簡単で、毎晩、眠れないままに寝床で悶々と過ごす時間が長くなる。そしてそのような苦痛の時間が長ければ長いほど睡眠に対する不安や緊張が高まる。その結果、寝室で横になると目が冴える、寝室に向かう時刻になると不安を感じる、ついには眠ることを考えただけで緊張が高まるようになる。いわゆる古典的な負の「条件付け」が完成し、不眠症が悪化するのである。(参考:「“青木まりこ現象”からみた不眠の考察」) 逆に眠ろうと身構えない日中には自然な眠気が出てくるため、昼寝(午睡)や夕食後のうたた寝が増えてしまう。このことがさらに不眠症状を悪化させる。