「熱海秘宝館」が初めての大規模リニューアル…「文化としての性」を残す最後の砦になっていた
実用の外にあるエロティシズムの魅力
性は人類すべてに関係する根源的なテーマ。さまざまな人の当事者性を喚起しやすいだけに、当然、配慮が求められる。 「性、性愛は全人類に当事者性があるテーマ。リニューアルに際して、改めて弁護士などの専門家にご協力いただいています」 だが、リニューアルの企画でそうしたルールの“縛り”はむしろ想像力をかき立てる仕掛けとして機能したようだ。 「新しい秘宝館の企画を考える上でも、イマジネーションの力を大切にしました。直接的な表現に頼りすぎると、かえって受け手の楽しみ方や感じ方を限定・制約してしまうので、つまらなくなってしまうんです」 ホラー小説がときに過激な映像以上に深い恐怖体験をもたらすことがあるように、エロティシズムにも受け手の想像力を刺激する性表現ならではの情緒もある。幅広い性の表現を通じ、俯瞰的に性のカルチャーに触れられる熱海秘宝館のような施設は、今の時代だからこそ重要なのだと渡邉氏は語った。 「現在の日本において、秘宝館の存在は社会的意義があるものだと信じて疑わずに取り組みました。性、性愛は人間にとって普遍的なテーマで、誰にとっても当事者性があるゆえに忌避されやすく、無かったものにもされがちです。それが秘宝館のような“文化”としてのものであっても同様です。 人類の“創造の軌跡”の一側面である、『文化としての性、性愛』について総括的に知り、感じ、考えることのできる空間は、日本では秘宝館以外にはほぼ無いと言えると思います。現在の日本で性や性愛に関するトピックといえば、“実用的なもの”がほとんどではないでしょうか。 でも、エロティシズムって“実用性の外”にあるもので、人間だけが持つ力、人間ならではの想像力・創造力が必要なもの。リニューアルを経た熱海秘宝館が、『文化としての性、性愛』について思いを巡らせられる場所になればと思っています」
伊藤 綾(ライター)