「あんた今しんどいやろ」患者に言われ号泣した看護師 こころを病みながら働く人が多すぎる現実「支えるには訪問看護しかないと」
■「あんた今しんどいやろ」患者に言い当てられて号泣 ── そもそも中野さんご自身もメンタル不調に悩まれた時期があるとか。どんな状況だったのでしょうか。 中野さん:看護師になって2年目、神戸の精神科病院に勤めていたときのことです。精神疾患は、本人の価値観や性格が大きく影響しているので、同じ病気でも人によって症状やその出方はさまざま。教科書で習ったことがまるで通用せず、毎日壁にぶつかっては落ち込む日々でした。まだ新人で自分の引き出しが少ないので、患者さんへの対応に戸惑うことが多かったんです。しかも当時は、熊本から神戸に出てきたばかりで、関西弁のニュアンスや距離感がつかめず、周りとのコミュニケーションにも苦労していました。
そんな私の様子に気づいたある患者さんが、「こっちにおいで」と声をかけてくれたんです。長年うつ病を抱えた年配の女性でした。きっと私が悲壮感漂う顔をしていたのでしょうね。「あんた今、しんどいやろ?見たらわかるよ。私はあんたが生まれる前からこころの病気とつき合ってる、うつのプロやで」と。優しさあふれるその言葉に張り詰めていた気持ちが緩み、患者さんの前で思わず号泣してしまって。看護師が患者さんに慰められて泣いている。そんな光景、見たことないですよね(笑)。
── たしかに(笑)。 中野さん:でも、そのときにわかったのは、私たちが患者さんを観察するのと同じぐらい患者さんからも見られているんだということ。「あんたの顔がどんどんしんどそうになってきていたよ」と言われました。私はもともと完璧主義なところがあって、「看護師はこうでなければ」という思考にとらわれて、しんどくなっていたんですね。この出来事をきっかけに、「肩ひじを張らず、もう少し人間同士として接してもいいんだな」と気づき、こころがラクになりました。
── 患者さんとの向き合い方に影響を与えた出来事だったのですね。 中野さん:意識が変わりましたね。25歳まで精神科で働いた後、脳性まひや知的障害が重い子どもなどを対象にした重症心身障害児施設に勤務し、専門性を高めるために認定看護師の資格を取得しました。ですが、看護について学び直すなかで、「自分の知識や考え方は、本当に合っているのだろうか」と疑問がわいてきたんです。 年代によって教育の内容は少しずつ変わりますし、キャリアを重ねると自分の経験で決めつけて物事を語ってしまうことも。現場でスタッフの指導をしていたので、自分の知識や考え方が曖昧だと、スタッフに対しても失礼だなと。悩んでいた時期に先輩から「看護学校の教員になって生徒と触れ合うことで、自分も学べるよ」とアドバイスをもらったのをきっかけに、8年勤めた障害児施設を退職して看護学校の教員になりました。