減り続ける献血可能人口、「足りない血液」を補う人工血液の研究進む
もし、大ケガをして手術が必要なとき、病院から「輸血用の血液がない」と言われたらと考えるとゾッとする。輸血用血液の不足する量は増加傾向にあるとされ、けっして絵空事ではないが、赤血球の機能を持つ人工血液の開発を進めている研究者がいる。中央大学理工学部応用化学科の小松晃之教授だ。人間用だけでなく動物用の研究も進めており、共同開発企業との検討などを経て実用化を目指している。
減り続ける献血可能人口
日本赤十字社は、ケガや病気の治療に使われる輸血用血液の不足する量が年々増え続け、2027年には約85万人分が不足すると予測する。輸血用血液はすべて献血によってまかなわれているが、少子高齢化により、16~69歳の献血可能人口が減り続けるためだ。こうした状況で大きな災害が発生した場合、輸血を必要とするけが人が急増して一気に血液不足に陥る恐れがある。献血だけに頼らない輸血用血液の安定した供給が求められるのは、こうした理由がある。
実用化困難なヘモグロビンの高分子化製剤
血液には、酸素を身体中に運搬する「赤血球」、病原体を攻撃する「白血球」、出血を止める「血小板」といった血球と、水分のほかアルブミンなどの液体成分の血しょうがある。 赤血球内で酸素を運搬する役目を担うのは、ヘモグロビンというたんぱく質。赤血球代替物を研究してきたほかの研究者は、これまでヘモグロビンを高分子化した製剤などの研究に取り組んできたが、いまのところ実用化にはいたっていない。 理由は副作用にある。ヘモグロビンは、血管壁内にあって血管をゆるめる働きをもつ一酸化窒素と結合しやすい性質を持つ。製剤を血管中に通すと血管壁に入ったヘモグロビンが一酸化窒素と結びつく。すると、一酸化窒素の働きが弱まるため血管が収縮し、高血圧のリスクが高まってしまう。
実用化に期待がかかる「ヘモアクト」
これに対し、小松教授が2013年に開発したのが、赤血球の機能を代替する人工血液(人工酸素運搬体)だ。小松教授は3個のヒト血清アルブミン分子でヘモグロビン分子1つを包みこむ構造を考えた。「アルブミンには以前から注目しており研究も行っていました。これでヘモグロビンを包めばいけるんじゃないかと思ったのです」。 アルブミンの表面は、マイナスの電荷を帯びている。血管壁内にもマイナスの電荷を帯びた膜があるので、マイナスとマイナスとが反発しあって血管中にとどまり、血管壁内の一酸化窒素には影響を与えない。血液中に含まれるアルブミンなので、体内の組織は『安全な物質だ』と判断してくれる。 「できた時はうれしかったですね。簡単に作れるとわかりましたし、実用化できると確信しました」と小松教授は語る。『ヘモアクト』と名付けて発表したところ、新聞でも報道され、医療関係者からの問い合わせや共同研究の打診が相次いだ。