コーヒーで旅する日本/九州編|下関を若者が未来を描ける町に。「NIKO COFFEE」が表現する日常のアップデート
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。 【写真】2階がオーダーカウンター兼キッチン。コーヒースタンドとして利用もOK 九州編の第107回は山口県下関市にある「NIKO COFFEE」。市立しものせき水族館 海響館や唐戸市場、カモンワーフなどが集まる唐戸エリアに2024年3月、オープンしたコーヒーショップで、1階にイートインスペース、2階にオーダーカウンター、3階に美容室という変わった造りが印象的。オーナーの永野正芳さんが長年温めてきた「地元をもっと元気にしたい。若者たちがワクワクするような場所をつくりたい」という思いを形にしたのがこの場所だ。永野さんは美容師で、現在の拠点は福岡。店を任されているのは店長の小畑来夢さん。2人に「NIKO COFFEE」に込めた思い、コーヒーやメニューのこだわりを聞いてみた。 Profile|小畑来夢(おばた・らいむ)さん 山口県下関市出身。もともと福岡市内で美容系の仕事に就いていたが、バリスタとしてカフェで働くことに憧れを抱いていた。ちょうど下関にUターンした時期に「NIKO COFFEE」がオープニングスタッフを募集していることを知り、未経験ながらすぐに応募。現場に立ちながら日々バリスタ、カフェスタッフとしてのスキルを磨き、現在は店長に。 ■ワクワクできる場所があれば 訪れたのは雨が降る平日の午後だったが、続々と客が訪れる人気ぶり。若い女性やカップルでの利用が多いのが「NIKO COFFEE」の特徴をよく表している。店は3階建てのシンプルな雑居ビルだが、外壁、屋内すべてブラックとグレーで統一されたおしゃれな雰囲気。内外装のデザインは下関とゆかりがあり、下関市役所前にある人気店・TAGLINEなども手掛けたritaya designが担当。デザイン性はオーナー・永野さんがまずこだわりたかった部分だ。 「僕自身、高校卒業まで下関市で過ごしたのですが、やはりその当時は都会に出たくて仕方なかったんですよね。『下関にはなにもない、おもしろくない』とずっと思っていて。美容師になると決めて福岡の専門学校に進学し、就職は東京に。そうやって故郷から離れて長年暮らしてきました。ただ美容師になってちょうど10年目の2020年、福岡で独立開業したときぐらいから、あらためて下関という町で自分ができることはないか考えるようになって」と永野さん。 自身が10代のころ感じていた、もっとワクワクして、気持ちが高ぶる場所がこの町にあったらという思いを形にするなら、美容師としてサロンを開くだけでは足りない。10代の若者たちが気軽に足を運べる場所と考え、コーヒーやスイーツ、フードが気軽に楽しめるカフェを開くことに決めた。コーヒーの監修を依頼したのは福岡市・高砂にあるロースタリー、FILTER SUPPLYだ。 「FILTER SUPPLYのオーナー・柴田くんとは東京で暮らしていたときから顔見知りで、福岡で再会しました。同じ山口県出身ということもあり、以降仲のよい友人として付き合いがあります。コーヒーショップを開くと決めてから、柴田くんとどんなコーヒーを出していくか話し合いながら詰めていきました」(永野さん) 味わいで大切にしたのは永野さんが初めて飲んだときにコーヒーの概念が変わったという、エチオピア ナチュラル由来の独特なフレーバーと華やかな酸。当初は極めて浅めの焙煎を考えていたが、深煎り文化が根付いた地域柄、やや浅煎りという焙煎度合いに落ち着いたという。 日々コーヒーを抽出している小畑さんは「エチオピアとブラジルのブレンドで、エチオピア由来のベリー、フローラルなフレーバーが際立っていると感じています。当店はエスプレッソを用いるアレンジドリンクも多いのですが、ブラジルのナッツ感もプラスされているので、どんなアレンジにも対応できる印象です」と話す。 ドリンクはアメリカーノ(520円)、フレンチプレスコーヒー(450円)、カフェラテ(540円)など定番を筆頭に、いちごソースとチョコソースを加えたアポロラテ(590円)、オーツミルクラテ(560円)、エスプレッソトニック(590円)などさまざまなメニューを展開。そんなアレンジ系ドリンクが若者たちの興味をそそり、ワクワクさせる理由の一つになっているようだ。 ■山口で繋がった仲間と一緒に 「NIKO COFFEE」ではスイーツとフードも準備しており、開業時にメニューを監修したのは福岡市・白金にあるベーグルサンド専門店・DIG INN。永野さんは「デザイナーもコーヒーも山口とゆかりのある方にお願いしたこともあり、フードも山口と繋がりがある人にお願いしようと考えました。DIG INNのオーナーさんも山口出身ということで、柴田くんに紹介してもらって、メニュー監修をお願いしました。もちろんカフェを開業するわけなのでビジネスパートナーではあるのですが、もっと文化祭的なノリで、地元を盛り上げるために、みんなの得意分野を活かしながらワイワイ楽しみながら店を作れたらというのが僕の理想でした。自分自身も楽しみながらじゃないと、ワクワクするような場所は作れないかな、と。店を作り上げていくのは大変な部分もありましたが、そういった意味ではめちゃくちゃ楽しかったですね」(永野さん) そうやって2024年3月にオープンした「NIKO COFFEE」。現在は店長の小畑さんを中心に店を盛り上げているが、永野さんは今後、小畑さんら現場スタッフの声を吸い上げながら、よりコーヒーショップとして魅力的な場所にしていけたらと話す。 「小畑をはじめ、現場のスタッフたちがいろいろなアイデアを出してくれています。たとえば看板スイーツのミルクレープも春夏秋冬で使う素材やアレンジを変えているのですが、それも小畑らがしっかり話し合って提案してくれています。もちろん僕の意見や感想も伝えますが、それよりも現場のリアルな声は今後も大切にしていきたい。それはコーヒーも同じくで、オープンから半年以上を経て、秋冬・春夏という感じでブレンドや焙煎度合いを変えてみるのもおもしろいかも、と思っています。この店を通して、下関っておもしろい町だなとか、私たちもなにかやってみたいな、できるかもしれない、そんな風に若者たちに思ってもらえるような場所になっていけたらうれしいです」と永野さんは締めくくった。 ■小畑さんレコメンドのコーヒーショップは「Little O coffee&donut」 「北九州市小倉北区にある『Little O coffee&donut』。もともと店主の小川さんのことは前職時代から知っていて、『Little O coffee&donut』を開いたときからちょこちょこ通っています。小川さんは焙煎、抽出共に知識豊富なのでコーヒーは格別。ドーナツは全種類制覇しましたが、どれもおいしいですよ」(小畑さん) 【NIKO COFFEEのコーヒーデータ】 ●焙煎機/なし ●抽出/エスプレッソマシン(VIBIEMME)、フレンチプレス ●焙煎度合い/浅煎り ●テイクアウト/あり ●豆の販売/100グラム1720円 取材・文=諫山力(knot) 撮影=坂元俊満(To.Do:Photo) ※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。
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