群衆が大きいほど“リンチ事件は残虐”に...集団いじめの心理的メカニズム
なぜいじめはなくならないのか。企業による犯罪や国家による戦争が後を絶たないのはなぜか。人は、一人ではとてもできないことを集団ならいとも簡単にできてしまう。集団心理の恐ろしいメカニズムを心理学者の内藤誼人氏が語る。 ※本稿は、内藤誼人著『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。
悪いことをしても組織なら許されてしまうのは、なぜ?
組織などの集団ではなく、個人がひどいことをすると、すぐに道徳的に非難されることになります。たとえば、ある人からみなさんがお金をだまし取られたりしたら、「この悪魔め!」「この守銭奴め!」と相手を罵りたくなるでしょう。それが人情というものです。 ところが、まったく同じことを組織がやっても、なぜかそんなに非難されないのです。 国、あるいは県などがみなさんのお金を少しだまし取ったとします。もちろん、腹は立つでしょうが、個人にお金をだまし取られることに比べたら、まだマシと感じるのではないでしょうか。 イスラエルにあるベングリオン大学のウルエル・ハランは、「家の所有者とリフォーム会社が、台所を新しく改装するための契約を結んだ」という内容の文章を作って、146人に読ませてみました。 この文章には続きがあって、「リフォーム会社は施工の1週間前に一方的に契約を破棄した」という内容が書かれていました。とてもひどいことをしたわけです。 さて、ここまでの内容は同じですが、ここから先でハランは2通りの文章を用意しておきました。半数の人に与えられた文章では、「リフォーム会社のCEOが、より代金の高い他の仕事を引き受けるために契約を破棄した」と、CEO個人がひどいことをしたことになっていたのですが、残りの半数の人に与えられた文章では、「リフォーム会社が、より高い仕事を引き受けるために契約を破棄した」と、会社がひどいことをしたことになっていたのです。違っていたのはこの部分だけです。 それからハランは、この契約破棄がどれくらい道徳に反していて貪欲だと思うかを尋ねてみました。すると個人(CEO)がやったときのほうが、道徳に反していて貪欲すぎると評価されることがわかりました。一方で、会社がひどいことをやったときには、なぜか「納得できるビジネス上の決定だ」と思われることもわかりました。 たとえ同じことをしても、個人がやったときのほうが、人は非難されます。 ですので、何か悪いことをするときには、できれば他の人も誘ってグループや団体や組織でやったほうがよいでしょう。そのほうがバレたときに怒られません(笑)。 もちろんこれは冗談で言っているのであって、法に触れるようなことは絶対にしてはいけません。