ラグジュアリーブランド がカテゴリーを多様化する理由。本格時計に進出するルイ・ヴィトンなど:Luxury Briefing
どのラグジュアリーブランドにもエントリーレベルの商品がある
コレクションのアイテムが55ドル(約8110円)から225ドル(約3万3180円)という価格は、バルハーバーショップスのほとんどの店のラグジュアリーの価格帯を下回っている。だが、トラヴィス氏は、これはラグジュアリー分野のカテゴリー拡大のメリットのひとつだと語る。トラヴィス氏いわく、バルハーバーが最近行ったラグジュアリー企業15社の幹部とのラウンドテーブルでは参加者全員が、新規顧客を取り込む方法として、より高価な価格帯の商品と関連性のある入手しやすい選択肢を用意する必要性に言及したという。 「どのラグジュアリーブランドも、エントリーレベルの商品を作っていた」とトラヴィス氏。「(ラグジュアリーホテルと不動産企業の)アマンリゾート(Aman Resorts)もそうだ。高級コンドミニアムやホスピタリティを販売しながら、エントリーレベルの化粧品やアパレルも販売している」。 アマンのオンラインショップには、200ドル(約2万9480円)から500ドル(約7万3690円)のスキンケアと化粧品のほか、バスローブやキャンドルなど1000ドル(約14万7400円)以下のアクセサリーがある。 「バルハーバーに来て、シャネル(Chanel)で3万ドル(約442万円)を使い、それからここで30ドル(約4420円)のランチをする。このふたつは同じ体験の一部のように感じられる」とトラヴィス氏は言う。「ラグジュアリーブランドは、それがそのブランドのものである限り、あらゆるカテゴリーを探求することができる。すでにやっていることの延長線上にあると感じられるような方法でやれば、さまざまなカテゴリーで活躍することができる」。
高級時計に進出するルイ・ヴィトン
そうしたブランドのひとつが、ラゲージとレザーグッズに注力していた当初の枠を超え、膨大な数のカテゴリーへと進出することができたルイ・ヴィトンである。現在ではホテル、レストラン、オートクチュール、ジュエリーなど、他の製品カテゴリーも手がけている。だが、多角化に向けたルイ・ヴィトンの最新の取り組みは時計カテゴリーだ。ルイ・ヴィトンはすでに腕時計を販売しているが、それらは「ファッションウォッチ」とみなされる傾向にある。グッチのような同時代ブランドの時計も同様に、ロレックス(Rolex)やパテック・フィリップ(Patek Philippe)、ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)のような本格的な時計コレクターブランドとは対照的な存在である。ルイ・ヴィトンの時計は再販市場で数千ドル、なかには3000ドル(約44万円)以下で売られているが、ヴァシュロン・コンスタンタンのようなブランドは定期的に5万ドル(約737万円)以上の値がつく。どちらも同じ時計ではあるが、本質的には異なるカテゴリーなのだ。 しかし7月、ルイ・ヴィトンは方向転換する意向を示し、製造する時計のモデル数を大幅に減らして残りのわずかなモデルの価格を引き上げた。モデルの80%が削減され、価格は平均4000ドル(約59万円)前後から2万ドル(約295万円)以上になっている。その意図は、スイスの古典的なコレクターブランドに対抗できる時計として、自社の時計を再配置することにある。 時計マーケットプレイスのクロノ24(Chrono24)のCEO、ティム・ストラッケ氏は、高級時計の分野に参入しようとする多くのブランドとは異なり、ルイ・ヴィトンは、実際に参入できるリソースと多才さを有する数少ないブランドのひとつかもしれない、と語る。 「ラグジュアリーブランドのなかにはファッション業界では非常に有名なブランドもあるが、時計業界で血統を築くには長い時間がかかる」とストラッケ氏は述べた。「長期的な努力を一度すればいいのではなく、数回にわたる努力が必要だ。しかしルイ・ヴィトンには資金力があり、権力もあり、そしてラグジュアリー志向の顧客を知っている。5年後、10年後には、ルイ・ヴィトンが時計でその血統を持つようになる可能性はある」。 ストラッケ氏は、コレクター垂涎の時計ブランドへの移行に成功した企業として、もともとは万年筆で知られるモンブラン(Montblanc)を例に挙げた。モンブランは1997年に時計の製造を開始したが、競争力のある時計ブランドとしての地位を確立したのは、2015年に発表されたヘリテージ・スピリット・オルビス・テラルム(Heritage Spirit Orbis Terrarum)以降である。それでもヴァシュロン・コンスタンタンのようなほかのブランドが何世紀にもわたって培ってきた経験に比べれば、モンブランは比較的新参のブランドだという。