『ミシュランガイド』がラーメンを認めた理由と、一つ星4名店の極上なる味わい
美食家も納得する洗練の一杯/東京・代々木上原『Japanese Soba Noodles 蔦』
『蔦』のラーメンを体験するなら、まずは『特製醤油Soba』を試してほしい。国産の丸鶏と香味野菜から抽出した動物系スープに、大量のアサリと昆布から取ったスープ、さらに本枯節(ほんかれぶし)を使った魚介系スープを組み合わせたトリプルスープは、驚くほど深く幾重にも重なるうまみにあふれ、桁違いのおいしさを生み出している。 別皿にはA5黒毛和牛のSUKIYAKIなどをはじめとしたこだわりの具材が添えられ、自家製フランボワーズソースや黒トリュフソースを使えば味の変化を楽しめる。細部にまでこだわった演出でゲストを飽きさせない、まるで和洋折衷のコース料理をラーメンで表現したかのような究極の一杯だ。 『蔦』を語る上であわせて重要なのは「1000円の壁」問題だ。食材や製法にこだわれば原価が上がることになるが、ラーメンにおいては長年、1杯が1000円を超えるのは難しいとされてきた。「ラーメンは安くて手軽なB級グルメ」と捉えている人がほとんどだからだ。ラーメンを数百円で食べていた人からすれば、1杯1000円以上のラーメンなどあり得ない。そんな常識が値上げに踏み切れない要因となっていた。 そんな中『蔦』 は、2019年の代々木上原への移転を機にメニューを一新。普通のラーメンが一杯1300円、最も高いメニューはなんと3550円という、それまでの常識を覆す強気の金額設定で勝負を挑んだ。一部では星付き店ゆえのおごりだと批判する声も上がる中、人目をはばからず自ら壁を超えることで他の店が後に続く足掛かりとなった。本来、作り手が作りたいものを作る理想の姿を『蔦』は体現して見せた。今や1杯の価格が1000円を超える店も珍しくなくなりつつある。壁が崩壊する日もそう遠くはなさそうだ。
幾層ものうまみを味わえる担々麺/東京・大塚『創作麺工房 鳴龍』
『蔦』の歴史的快挙をきっかけにして、次々と星付きのラーメンが誕生していく。『蔦』が星を獲得した翌年にあたる2017年には、東京・大塚の『創作麺工房 鳴龍(なきりゅう)』が一つ星を獲得した。 『鳴龍』の代名詞といえば酸味のきいた「担担麺」。スープの表面を自家製芝麻醤(ジーマージャン)とラー油が覆い、その下には醤油スープが隠れている二層構造が特徴だ。食べ進めるうちにそれらが混ざり合い、絶妙なピリ辛まろやかスープへと変化していく。鶏、牛骨、野菜など10種類以上の食材からだしをとったスープをベースに、黒酢とリンゴ酢のさわやかな酸味が主張する。 担々麺といってもほどよい辛さで、「担々麺は辛くて苦手」と敬遠する人でも、安心して食べられる。よりスパイシーさを求めるなら卓上の花椒をふりかけると良いだろう。