九州場所で琴桜と激しいV争い 豊昇龍が変貌した理由 進化を遂げて綱とりへ
大関琴桜(佐渡ケ嶽)が初優勝を飾った大相撲九州場所。大関豊昇龍(立浪)も21年ぶりとなる大関同士の千秋楽相星決戦まで譲らず、13勝2敗の好成績を収めた。投げに頼る悪癖が影を潜め、前に出る相撲を徹底。進化を遂げた背景とは。 相撲が変わったという声が多かった。九州場所の豊昇龍はムラッ気が見えず、安定感が際立った。立ち合いで鋭く踏み込み、前に攻めていく姿勢を崩さなかった。「変わりましたよね。ケガをする相撲はダメだとわかったのでは」。千秋楽の取組前、師匠の立浪親方(元小結旭豊)はまな弟子の変化を認め「若い衆もみんな『今場所は違う』と場所前から言っていた」と明かした。 転機となったのは、名古屋場所のケガだ。12日目の琴桜戦。寄られたところを逆転の首投げで仕留めたが、右内転筋を痛めて翌日から休場。優勝圏内にいる大関でありながら離脱し、務めを果たせなかった。得意とする投げに頼る取り口は、ケガと背中合わせ。立浪親方は「名古屋場所の時に『前に出ないとダメだ』って言いました」と改めて苦言を呈したという。 負傷明けだった秋場所は、千秋楽で辛うじて勝ち越し。これで尻に火がついた。場所後に行われたモンゴルの先輩・元幕内東龍の断髪式では「稽古はうそをつかない」と言葉をかけられ「後を託された」と稽古への意欲もアップ。さらに10月の秋巡業前には、師匠から「四股、すり足だね」とだけ伝えられた。「相撲の内容は話すけど、稽古に関してはあまり言われたことがなかった。珍しく言われた。ありがたい」と素直に感謝。基礎運動にみっちりと取り組む時間を増やした。 十分な稽古を積んで迎えた九州場所。つかんだ手応えは、取組前の準備にも違いとなって表れた。「アップがいつも激しかったけど、今場所はマイペースで激しくない」と付け人の北洋山。立ち合いの確認も、これまでは組むなどさまざまな形を試していたが、今場所はずっと両手と頭で当たっていく形しかしなかったという。「今までは腹とかいろんなところに青タンができていたけど、今場所はここだけ」。うっすらと青くなった左手首を示しながら「雰囲気が落ち着いてますね。毎日変わらない。ちゃんと集中できている」と大関の変化を証言していた。 連勝発進を飾った2日目。豊昇龍は「“前に出ない大関”って言われたのが一番嫌だった」と胸中を吐露していた。その後もまわしにこだわらず、安易に投げを打たず、とにかくまず前に出ることを貫き通した結果が、自身初の13勝。厳しい指摘が多かった八角理事長(元横綱北勝海)も「攻めが良くなった。勇気を出して(前に)出ている」と評価していた。 来年の初場所(1月12日初日、東京・両国国技館)では、初めて綱とりに挑むことになる。立浪親方は「今回いい相撲をとったことで、変わってくるのでは。こういう相撲をとれば大丈夫だと、見えてきたと思う」と、得た自信がさらに成長を促すと予見した。千秋楽の取組後は悔しさを爆発させ「来場所、死ぬほどやり返す」と誓っていた豊昇龍。言葉を現実にした時、悲願の綱を手にできる。(デイリースポーツ・藤田昌央)