なぜ森保監督は反撃の手を打たなかったのか…チュニジアに0-3惨敗
たとえば南野拓実(27、リバプール)は、チュニジア戦でも左ウイングで先発した。アジア最終予選の途中から導入された4-3-3システムの左ウイングとして、個の力で局面を打開するタイプではない南野は明らかに居場所を失っていた。 それでもチュニジア戦でのプレーを見る限り、チームとして何らかの工夫が施された跡は見当たらない。前半で目立ったのは何度も仕掛けた右ウイング伊東純也(29、ヘンク)であり、35分にはカウンターから絶妙のクロスを供給。しかし、MF鎌田大地(25、アイントラハト・フランクフルト)の右足はうまくヒットしなかった。 迎えた後半は15分から左ウイングとして投入された三笘薫(25、ロイヤル・サンジロワーズ)が再三にわたって1対1を挑み、そのたびに雨中のスタンドをわかせた。 南野との違いを何度も見せつけた三笘は試合後のオンライン取材で、こんな言葉を残している。それは森保ジャパンの現在地を的確に言い当てていた。 「チームとしてボールを持ったときに、どう攻めるのかという意識の共有とバリエーションが不足している。そういった部分の組み立てをやっていかないと、今日のような試合では自分はいるだけになり、やがては相手のカウンターを受ける流れになってしまう。チームとして決まりごとのようなものを持たないといけないと思う」 苦戦しながらも出場を決めたカタール大会では、ワールドカップで優勝した実績を持つドイツ、スペイン両代表とグループEで顔を合わせる。過去の対戦成績ではともに勝利をあげていない強敵へ、吉田はこんな戦い方を思い描いていた。 「必然的に守備的な戦いを強いられるなかでも、道標になる形をいくつも持っておくことが大事になってくる。カウンターの質だけでなく、過度なプレッシャーのなかで守るだけでは非常に厳しいので、ボールを持つ時間も必要になってくる」 カウンターでは昨シーズンの公式戦で20ゴールをあげたFW古橋亨梧(27、セルティック)のスピードを最後まで生かせなかった。この段階になっても、森保ジャパンで決まりごとが共有されていない証といっていい。自陣でブロックを形成してボールを奪い、鋭いカウンターを何度も発動させたのはチュニジアだった。 ボールを握っている状態からの攻撃も然り。だから三笘が言及したように、右の伊東を含めて、サイドからの攻撃も個の力に頼ってしまう。道標を手にするためのヒントすら得られないまま、16日間にわたって活動できた今シリーズを終えてしまった。 A代表と東京五輪世代となるU-24代表の2つのカテゴリーで、森保兼任監督はチュニジア戦までで82試合を戦っている。このうちスコアレスドローは3試合。残る79試合を振り返れば、先制すれば48勝6分けと驚異の無敗を継続している。 対照的に先制されれば2勝2分け21敗と大きく負け越している。最後に逆転勝ちを収めたのは、2019年1月のアジアカップのウズベキスタン代表戦。カタール大会出場を決めた直後のベトナム代表とのアジア最終予選も1-1で引き分けた。 あまりにも極端すぎる、それぞれの通算成績は何を物語っているのか。 対戦相手のスカウティングを含めた事前の準備を周到に積み、それらが完璧にはまったときにはめっぽう強い。対照的に先制されてシナリオに狂いが生じれば、選手交代やシステム変更を含めた采配で試合の流れを変えられずに最後まで後手を踏み続ける。 強敵との対戦が待つカタール大会では、当然ながら失点する確率が高いといわざるをえない。それが相手の先制点ならば、勝ち点を得られない確率がはね上がる。 「自チームで存在感を発揮することが自分のために、所属チームのために、そして代表チームの強化のためになるので、まずは所属チームのために頑張ってほしい」 試合後のピッチ上で行った即席ミーティングで、森保監督は選手たちにこんな檄を飛ばした。ヨーロッパ組が参戦できる次回の国際Aマッチデー期間は9月後半までなく、同時にカタール大会前で最後になる。残された時間がわずかとなった状況で、森保ジャパンの致命的な側面が惨敗を介して再びあぶり出されてしまった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)