高額フレグランスが好調な理由 いかにして日本人は「香り沼」にハマるのか?
自身の中で推しのイメージを作り上げるのは、クリエイティブで知的な楽しみがある作業だろう。それを香りに落とし込むことで、感覚的な喜びも味わえる。
「イメージに合致した香りに出合うと『この香りに包まれて眠りたい』と、高額な商品でも購入するお客さまが多い印象です。香りは嗅覚を通じて感情に働きかけるため、誰かを身近に感じる体験や、背中をそっと押してくれるような感覚を抱きやすいのかもしれません」。
好きになったら、とことん極める
生真面目&オタク気質の日本人
もう1つのタイプは、フレグランスそのものに魅了された、いわゆる「香水沼にハマった」人たちである。日本人を接客していると、好きになったらとことん知識を深めたいという、「香水道ともいうべき、いい意味でのオタク気質を感じる」と話す。
「海外のお客さまに香りの説明をする際は『ローズを使っています』程度なんですね。ところが日本の、特に香水好きなお客さまは、『ローズの品種は何か』『産地はどこか』『抽出の方法は』など、非常に研究熱心な人が多い。中にはびっしりメモを取る方もいます」。
メモは「SNSで香りを語り合う」際に活用されるらしい。現在SNSにはフレグランスのコミュニティーが複数存在し、香りに関する知識や情報がシェアされている。その多くが、テキストベースの「X」であるという。
「香りをご自身の言葉で表現すること。それに対して共感を得ることに、特別な喜びを感じる人が多いのではないでしょうか。SNSでつながった人たちと百貨店で待ち合わせをして、隅から隅まで色々なフレグランスを試す、オフ会的なイベントもよく見かけます」。
ある時そんな百貨店巡り中の男性に、「僕、まだ『フエギア1833』は『未履修』なんで」と言われ、「大学の授業で使う言葉では!?」と、佐藤氏は驚いたという。
実はオタク用語としての「履修」には、マンガ、アニメ、舞台など広く展開される作品を、網羅的に把握するという意味がある。フレグランスにも使われるとは驚きだが、確かに香料や、調香師、ブランドの歴史など、香りには網羅的に極めたくなる要素が多いのかもしれない。