高額フレグランスが好調な理由 いかにして日本人は「香り沼」にハマるのか?
香りだけが持つセラピー的な側面
なぜ人は、ここまでフレグランスに「沼る」のか。そこには、香りだけが持つ「嗅覚を通じて記憶や感情に働きかける」特性が関係しているように思えてならない。
「店舗で香りを試しながら、『亡くなった父を思い出します』『実家の香りがします』など、個人的な思い出を語って下さるお客さまが、とても多いんですね。『フエギア1833』には、『雨に濡れた草』『古い図書館』のように、記憶と結びつく香りがあるからかもしれません。時には香りを試しながら、涙する人もいるほどです」。
もう1つ、佐藤氏が注目するのは、特定の香りの前で立ち止まり、その場を離れなくなってしまう人がいること。代表的なものはウッディ系や、ウード(沈香)の香りである。
「樹木の香りやベチバーなど土を想起する香りは、気分を落ちつかせるといわれています。またウードは瞑想的な気分へと誘うものとして、古来宗教的な儀式にも使われてきました。お疲れの人ほど、このような香りの前で立ち止まるんですね。すでにこのような香りをご愛用のお客さまは、『この香りがあるから眠れる』と、お守りのように使う人もいます」。
精油を用いたアロマセラピーとはまた違った形で「フレグランスにも一種のセラピー効果があるのでは」と佐藤氏は分析する。だからこそ、自分にとって唯一無二の香りに出合ったら、ラグジュアリーな商品でも購入したいという、強い心理が働くのではないだろうか。
心に響く24年秋の「ラグジュアリーフレグランス」
今回はこの秋に誕生したラグジュアリーなフレグランスの中から「他にはない」「心に響く」という視点で3つの香りを紹介したい。
ディオールの名香を再解釈した特別なコレクション
「ディオール(DIOR)」の主要なフレグランスを、調香師フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)が再解釈した“メゾン クリスチャン ディオール エスプリ ドゥ パルファン”シリーズ。選び抜かれた香料を用いた全5種の香りの中で、“グリ ディオール”は、メゾンを象徴する色「グレー」を濃密な形で表現している。インドネシア産のパチョリやアトラス産シダーに、アンバーの温もりが重なり、ブルガリアンローズなどの花々と調和していく。伝統的なシプレーをモダンに昇華した、洗練された作品だ。