遠距離カップルが文通?新しい時代の恋愛事情とは。実力派作家陣が恋愛の「いちばんおいしいところ」を描く【書評】
「会えない時間が愛を育てる」と言われるが、やはり会えないと寂しさがつのってしまうもの。しかもそれがいつ会えるのかわからない、先の見えない状況だったとしたら…。 【漫画】本編を読む
『うた恋い。』の杉田圭を筆頭に、実力派作家たちが集結した短編集『たとえばこんな恋愛様式 恋愛ショートアンソロジーコミック』(COMIC BRIDGE編集部:編集/KADOKAWA)。本作は現代の多様な恋愛の形を描き出している。 「新しい生活様式」が提唱された数年間。会うことが叶わず、触れあえなくなった恋人たち。出会いの場が激変してしまった、恋愛をしたい人たち。彼らはどう過ごしていたのだろうか。本作では、変化する社会情勢下での遠距離恋愛、片思い、両片思い、出会い待ちなど、様々な恋愛模様がショートストーリーで紡がれる。 筆者のお気に入りは、遠距離カップルの様子を描いた短編「リモートレターズ」(泥川恵/@doro_desu2)。遠距離ゆえどんどん会うタイミングを失っていたとき、彼女が「文通しよう」と提案。このおかげで、彼と彼女は離れている間もお互いの新たな魅力を発見しあう。そしてたどり着いた答えとは…。ふたりのすてきな関係が実に眩しい。 収録されている作品たちはわずか数ページにもかかわらず、ストーリーはもちろん、キャラクターの魅力もたっぷりと描き出されている。実力派作家陣の底力を垣間見た気がした。 重厚で読み応えのある作品を一冊で楽しめてしまうのは、短編集ならでは。この贅沢な気分をぜひ味わってみてほしい。 「新しい生活様式」が提唱されて以降、わたしたちのライフスタイルは大きく変化した。しかし、本作を通じて感じられるのは、恋愛の本質は変わらないということである。時代や状況が変わっても、人々は触れあい、近づき、恋をする。本作はそんな普遍的な恋愛の姿を、現代的な切り口で描いている。 恋愛の「いちばんおいしいところ」を詰め込んだショートアンソロジーだからこそ、どの作品を読んでも高い満足度と自身の恋愛観を再考するきっかけを得られる。読めばきっと恋がしたくなってしまうはず! 全ての読者におすすめの一冊である。 文=ネゴト / Ato Hiromi