問題を抱えた子どもたちが犠牲に。「プロブレム・ティーン産業」の闇
富裕層の家族がターゲットのプロブレム・ティーン産業
これは、“問題を抱えた若者を治療する”と謳う、プロブレム・ティーン産業(※原語はTroubled-Teen-Industry)で起きた最新の悲劇だ。この業界は長い間、追い詰められた裕福な家庭をターゲットにしてきた。こうした家庭は、施設だけでなく、高額な入院プログラムや、そこにつながる教育コンサルタントの費用も負担でき、自分の子どもが問題に対処するには、「愛の鞭」のアプローチや自然とのふれあい、自立の力が必要だと信じ込んでいる。そしてさらには自分たちの持つ特権そのもの、つまり、普段の生活に快適さが多すぎることでこうした問題が生じたのであれば、その快適さをなくすことで問題はなくなるかもしれないという考えからこの種の治療を求める場合もある。
親たちは治療施設で何が起きているのか知らない可能性がある
それでも、親たちは、子どもたちがいったん治療施設に送り出されたらどんな経験をすることになるのか誤解している可能性がある。 「両親は教育コンサルタントから、私を情動発達の寄宿学校に送るべきだとアドバイスされました」とパリス・ヒルトンは述べた。彼女は回顧録『Paris: The Memoir(原題)』とドキュメンタリー「This Is Paris」の中で自身の経験について詳しく述べ、この夏、議会でも証言を行った。「両親は子どもたちが笑顔で馬に乗っていて、背景に虹がかかっている美しいパンフレットを見せられました。両親は私が素晴らしい寄宿学校に行くのだと思っていました。そう聞かされていたからです」。ヒルトンは、自分の経験は「ホラー映画に出てくる心理的拷問」のようなものだったと述べている。
カルト集団化した’60年代の居住型薬物治療プログラム「シナノン」
問題を抱えた若者向けの支援ビジネスは1世紀以上前から存在しているが、現在のプログラムで用いられる「愛の鞭」メソッドの多くは、最初の居住型薬物治療プログラムである「シナノン」に遡ることができる。「シナノン」は1958年に元薬物中毒者によって設立され、作家のヘンリー・ミラーやレイ・ブラッドベリ、ハリウッドスターのジェームズ・メイソン、ジェーン・ラッセル、スティーブ・アレンなど、多くの著名人や富裕層の支持を得て人気を博したが、1970年代にはカルト集団へと変貌して問題化した(ロリー・ケネディ製作・監督の同団体に関するドキュメンタリー『シナノン・フィックス』は4月にHBOで初公開された)。「人を壊して治すという考え方そのものが、'60年代と'70年代のヒューマン・ポテンシャル運動とともに盛んになりました」と語るのは、プロブレム・ティーン産業のはらむ危険性について警鐘を鳴らす『Help at Any Cost: How the Troubled-Teen Industry Cons Parents and Hurts Kids』の著者マイア・サラヴィッツだ。 写真/1969年、映画のエキストラとして出演するために頭を剃るシナノンのメンバー。