JR東海はなぜ“終電繰り上げ”しないのか 東京・大阪とは異なる“愛知の特性”とは?
「うすらでかい田舎」?
鉄道以外の交通機関にも目を向けてみよう。 一般財団法人自動車検査登録情報協会の2019年3月時点のデータによると、都道府県別の自家乗用車数は愛知県が419万台で、2位の埼玉県の321万台を大きく引き離してぶっちぎりの1位となっている。 一世帯当たりの台数にすると、福井県がトップで、1.736台。愛知県は1.269台(29位)で、こう見ると、それほど多くもないようだが、愛知県よりも一世帯当たりの自動車台数が上位の自治体で、愛知県よりも人口が多い都道府県はない(ちなみに2位が富山県で1.680台、3位が山形県で1.671台)。3大都市圏では、東京が47位(0.432台)、大阪が46位(0.645台)となっており、人口の多い都市部を持つ県としては、愛知県の自家用車の数は圧倒的に多いのである。 愛知県の人口は754万人で、名古屋市内の人口は232万人。名古屋市以外に500万人以上もの人が住んでいる。名古屋市の東側には、春日井市、瀬戸市、尾張旭市、日進市、刈谷市といった衛星都市が名古屋市と豊田市に挟まれるようにして南北に並んでいる。これらの自治体に名古屋市内から列車で行こうとすると、場所によってはとても不便だ。東側にあるトヨタ関係の会社や工場に通っている人も多く、移動手段の主体は車となる。 そして、名古屋市から東側のこれらの自治体を車で走ると、大型のショッピングセンターやチェーン店が並ぶ一方で、商店街や繁華街が目につかない。ここに住む人は、どこで飲酒するのか。作家、村上春樹は著書「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の中で、名古屋についてこう書いた。 「人は多く、産業も盛んで、ものは豊富だが、選択肢は意外と少ない(中略)文化的な面をとりあげれば、東京に比べてうすらでかい地方都市という印象は否めない」
客層の薄さ コロナ禍前から
愛知県の人が外で飲まないということを類推させる、こんな数字もある。民間調査会社、東京商工リサーチが昨年1月~11月に倒産した企業を調べたところ、東京1261件、大阪1066件、愛知511件だった。そのうち、飲食店関係は東京が129件(10.23%)、大阪146件(13.7%)、愛知76件(14.87%)となり、倒産した全ての企業に占める飲食店の割合は、3大都市圏で愛知県が最も高かったというのだ。 同社の担当者は「いま、倒産している会社は、コロナの感染拡大とは実はあまり関係がなく、もともと経営が苦しかったところが大半。あくまでコロナは『最後のだめ押し』という意味合いが強い。本当の意味でのコロナ倒産が増えるのはこれから」と分析する。その上で、「東京よりも、大阪、愛知の飲食店の倒産割合が大きかったのは意外。ここから推測できるのは、やはり東京は(コロナ禍でも)外食する人が多いということ。愛知はもともと外で飲食する人が少なく、経営の厳しかった店にコロナ自粛が直撃した、と言えるのではないか」と話す。 昨年8月には、名古屋・栄の名門ジャズライブハウス「名古屋ブルーノート」が閉鎖した。新型コロナウイルスは「3密」を生みやすいライブハウスの経営を直撃した。だが、中部の音楽業界に詳しい地元記者は、コロナだけが問題ではないと指摘する。 「名古屋ブルーノートは、運営会社が自社ビルの空きスペースを有効活用するために始めたこともあり、家賃がない。それでも経営が厳しかったということだ。近年はジャズだけでは客を呼べないので、宇崎竜童や相川七瀬といった過去にヒット曲を持っていて、それなりに人気のあるJポップ歌手を出演させていた」 ジャズライブハウスとはうたってはいても、名古屋ではそれだけでやっていくのは難しい、ということだったようだ。この記者はこう続ける。「フリージャズの大御所、山下洋輔のライブで30人くらいしか入っていなかったこともあった。名古屋はコアな音楽ファンはそれなりにいるけど、東京や大阪と比べると層が厚いとは言えないし、店も少ない」 コロナ禍、JR各社の終電対応の違いから、東京や大阪とは一味違う、「愛知の特性」が浮き彫りになった。