さよなら「ベントレーW12」20年間で10万機以上生産された珠玉の12気筒エンジンの歴史を振り返ろう…あっと驚いた記録の数々とは
記録とベンチマーク
ベントレーW12エンジンは競技用として開発されたものではなかったが、生産開始から20年の間にいくつかの重要な記録を打ち立てている。2007年、4度の世界ラリーチャンピオンに輝いたユハ・カンクネンがコンチネンタルGTを駆り、ボスニア湾の凍った海で時速320km/hを記録し、氷上世界速度記録を樹立した。彼は2011年に630psのコンチネンタル スーパースポーツ コンバーチブルで復帰し、時速330km/hまで記録を伸ばした。4年後の2015年、俳優のイドリス・エルバはコンチネンタルGTスピードのステアリングを握り、ペンディン・サンズで時速288km/hを記録し、「フライング・マイル」英国陸上新記録を樹立した。 2018年には2度の優勝経験を持つリース・ミレンが、コロラド州パイクスピークで開催されたレース・トゥ・ザ・クラウドで量販車SUVクラスの新記録を樹立した。W12ベンテイガを駆った彼は、12.42マイル(約20km)のコースをわずか10分49秒900で完走し、平均時速は約106km/hで、それまでのベンチマークを約2分短縮した。ミレンは2019年、W12エンジンを搭載したコンチネンタルGTスピードでパイクスピークのプロダクションカー新記録を樹立し、10分18秒488、平均時速112km/hという驚異的なタイムを叩き出し、従来の記録を8.4秒更新した。
W12に別れを告げる
W12エンジンはまた、「コーチビルト・バイ・マリナー」を自動車ラグジュアリーの頂点に確立するうえで重要な役割を果たした。わずか12台しか存在しないベントレーで最も希少な2ドア、「バカラル バルケッタ」は、650psのW12エンジンを搭載している。同じくマリナーの手による「バトゥール」は、究極のW12エンジン搭載ベントレーとして歴史に名を残すだろう。わずか18台のクーペと16台のコンバーチブルがオーナーの仕様に合わせて手作業で製造され、それぞれに750ps、1000NmのベントレーW12エンジンが搭載される。 現在でも10万台以上のモデルが世界中のオーナーに優れたサービスを提供しているベントレーW12エンジンは、現代において最も成功した12気筒エンジンである。絶え間ない開発により、出力は34%、トルクは54%向上し、同時にCO2排出量は25%削減された。W12型エンジンは、世界で最も人気のある高級車ブランドとしてのベントレーの進化に重要な役割を果たした。ベントレーが電気自動車の時代に乗り出すとき、その後に何が待ち受けていようと、W12型エンジンが忘れ去られることはないだろう。 AMWノミカタ このエンジンを載せたコンチネンタルGTが登場したときには、当時フラッグシップモデルであった「アルナージ」に搭載されたエンジンと比べられ、6.75LのV8 OHVエンジンこそがベントレーのエンジンだと、その存在はとくに既存ベントレーオーナーにはあまり受け入れられなかった。VW「フェートン」や「トゥアレグ」、アウディ「A8」にも同じ6.0L W12気筒モデルが存在していたので、オリジナリティを感じてもらえなかったのかも知れない。 しかし、コンチネンタルGTの発売以降、瞬く間にその加速力、静粛性、レスポンスの良さが評価され、ベントレーの主力エンジンの地位に上り詰めた。とくに素晴らしかったのはトルクの出方である。ベントレーはかつて良い高級車のエンジンの定義を「太いトルクがあること」と考えていた。たしかにこのエンジンはアイドリングからわずかにアクセルを踏み込むだけでピークトルクに到達し、街中のちょっとした加速や高速の追い越しなど全くストレスなく行うことができた。しかも時を経るごとにスムーズに進化してゆくエンジンはベントレーのアイデンティティの一部となっていたように思える。このエンジンの生産が終了してしまうことは非常に寂しいが、このW12エンジンのなんとも人を心地よくする不思議な感覚が新パワートレインにも引き継がれていることを願いたい。
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