「眠れる有権者」ヒスパニックが目覚めた...激戦州アリゾナで語った複雑な本音とは?
<トランプ勝利の原動力になったヒスパニック有権者らの経済的苦境への強い不満。その姿は、トランプ支持者が自らを語る際の「忘れられた人々」に重なる...>【半沢隆実(共同通信特別編集委員)】
「トランプに投票した。何かを変えてもらわないと生きていけない」 35歳のカルロス・クルスは、ショッピングモールの広大な駐車場の片隅に止めた車の前で、はにかんだ表情で話した。車は両側のドアが大きくへこみ、中には色とりどりのファストフードの空き袋が散乱している。 【動画】トランプの発言「ヒスパニックが好き。彼らは温かい。時に温かすぎる」 アメリカ西部アリゾナ州フェニックス中心部に近いアルハンブラ地区。メキシコ出身で無職のクルスは、日雇いの仕事を探すために毎日この場所に通う。以前は飲食店で働いていた。 「コロナ禍以来、ずっとこんな暮らしさ」と言った瞬間、人懐こい黒い瞳から光が消えた。「政治に期待することはない。消極的トランプ派だ」と言う。 今回の大統領選で激戦州となったアリゾナは、2016年には共和党のドナルド・トランプが民主党のヒラリー・クリントンに勝利。前回20年選挙では現在の民主党ジョー・バイデン大統領が取り戻した。 結局トランプは今回の選挙でアリゾナを含む激戦州7州を制したが、地滑り的勝利の主要な理由の1つがヒスパニック(中南米系)有権者の動向だったと分析されている。 アリゾナ州は人口の約30%がヒスパニックだ。調査会社エジソン・リサーチの出口調査によれば、トランプは全国平均で前回選挙時の32%から今回は46%と14ポイントの驚異的な伸びでヒスパニック票を獲得した。 クルスと出会ったアリゾナのアルハンブラは、ヒスパニック住民が多いフェニックスでも、特に彼らの密集度が高い地域とされる。街角には中南米系の料理店や衣料品店が並び、道行く人々の姿も大半がヒスパニックで活気も感じられる。 しかし、この地域の生活の厳しさはすぐに見て取れる。駐車場には事故車なのか、前面や側面が大破した車両が多数放置されている。あちこちの地面には、割れた車のウインドーガラスが粉々になって落ち、一目でよそ者と分かる記者への冷たい視線も感じた。 ■不法移民対策に共鳴する 投票権を持たない人々を含めて、ヒスパニック住民らと話すと、コロナ禍を境に加速した経済的苦境への強い不満が一様に聞かれた。その姿は、トランプ支持者が自らを語る際の「忘れられた人々」に重なる。 「極端な苦難に直面しながら、彼らに救いの手が伸べられることはあまりなかった」と指摘するのは、人種間の社会格差に詳しいアリゾナ大学のリサ・サンチェス助教だ。 「コロナ禍でエッセンシャルワーカーと位置付けられながら、現業職に就いているが故に、(白人など)他のグループと比較して解雇対象になりやすく、家族や友人にコロナで死ぬ人も多かった」 アリゾナ州の22年の世帯収入の中央値は、白人の約7万6000ドルに対しヒスパニックは約6万3000ドルと20%ほど低い。失業率は今年に入って3.9%と、白人(3.0%)より1ポイント近く高い。