「眠れる有権者」ヒスパニックが目覚めた...激戦州アリゾナで語った複雑な本音とは?
「ヒスパニックを愛している」
100万人を超える国民を死なせたコロナ禍という国難にあったアメリカを下支えした彼らが、貢献を認められず見捨てられたと感じても不思議ではない。政権を代えた大統領選は、ヒスパニックの乱でもあった。 ブルーカラーの労働者が多いヒスパニックは長年民主党を支持する傾向が強く、調査結果によれば今回も約6割がハリスに投票した。 しかし、「ヒスパニックを愛している」と単純なメッセージで秋波を送り、インフレ抑制と不法移民対策という分かりやすく具体的な政策を掲げたトランプのメッセージが浸透したのは明らかだった。 一方のハリスは中間層の生活向上や、人工妊娠中絶を中心とした女性の権利、そして民主主義の擁護を掲げた。しかしそれらのテーマはどこか漠然としており、失業やインフレにあえぐ人々の目には物足りなく映ったはずだ。不法移民対策も付け焼き刃だった。 医療通訳者の女性、ガブリエラ・パシオニ(54)は、トランプの強硬な不法移民対策を支持し投票した。メキシコからの留学を経て米国籍を取得したパシオニは「不法移民が、法を守って苦学した自分と同じ立場でこの国にいるのはフェアではない。私は学費を出してくれた両親の苦労を知っているから」と言う。 メキシコを含む中南米地域から入ってくる人々を「レイプ魔」と言い放つトランプに嫌悪感を抱くヒスパニックの知人は、パシオニを「トランプと同じ人種差別主義者だ」と批判するという。「けれど気にしない。不法移民の中には実際に犯罪者がいてホームレスになる」 ■拡大し続けるその政治力 アリゾナ州教育省の公務員ロベルト・ガルシアも、熱狂的なトランプ支持者だ。民主党政権下のアメリカを沈みゆく船に例え「前の艦長は良かった」と、トランプの返り咲きを喜んだ。ガルシアは現在54歳で、メキシコ系の家庭に生まれた。 「20代は親の世代に倣って民主党支持だったが、経済政策や教育問題、軍の在り方などの問題を考えるうちに共和党員になった」 彼は退役軍人としての経歴から、バイデン政権によるぶざまなアフガニスタン撤退に心から失望し、「より強い米軍」を公約するトランプを支持する。一方、「やはり彼に期待するのは国境を守り抜くことだ」とも、ガルシアは語気を強めた。 「移民を排除したいわけではない。ただアメリカはアメリカ人のものだ。その原則を守ってくれるトランプがホワイトハウスに戻れば、この国はさらに偉大になる」