「医療費が食い物にされている」訪問看護師たちのMeToo運動 難病や末期向け老人ホーム、精神科で「不正、過剰な報酬請求」
「『会社に報復されたら、どうしよう』という怖い気持ちはあるけど、このまま野放しにしてはいけないと思う」 「こういうことが行われているとは、国も一般の人たちも知らないのではないか。声を上げないといけないと思った」 「『こんなのは看護じゃない』と思うことをやらされて、悔しい」 ▽制度の構造的な問題も 何人かは訪問看護の制度に対してもモヤモヤした思いを吐露した。どういうことか。 公的医療保険を使った訪問看護は原則、週3回までと決まっている。だが、難病や末期がんなどの患者の場合は、毎日3回まで診療報酬を受け取れる。複数人で訪問したり、早朝や夜間に行ったりすれば、加算報酬も得られる。 看護師が患者の状態をアセスメント(評価)して必要性を判断するのだが、看護師が「必要ない」と思っても、会社側が「必要だ」と言い張れば、それが報酬目的の過剰な訪問であっても、まかり通ってしまうという構造的な問題がある。線引きは難しいため、行政が「この患者に複数人での訪問は必要ない」などと断定することは事実上、不可能だ。
もう一つの「モヤモヤ」は制度と実態が合っていないということだ。医療保険の訪問看護は原則、30分以上でないと報酬を請求できない。例えば、老人ホームで難病の患者に1回当たり10分ほどで1日10回訪問しても、報酬は一切受け取れないことになっている。 実際、看護師たちによると、PDハウスとスーパー・コートどちらでも、報酬を請求できない頻繁な訪問をしているケースがあるという。事業者によっては「報酬を受け取れない訪問をしているのだから、ほかで埋め合わせてもいいではないか」という心理が働く可能性もあるだろう。 このため、介護業界からは老人ホームの訪問看護の報酬について、実施した分を受け取る現在の「出来高払い」ではなく、一定額の「包括払い」に変更すべきだとの提案も出ている。 ▽取材後記 不正や過剰な報酬請求が指摘される会社は、総じて看護師の給与が高めだ。病院勤務に比べると負担が重くないこともあって、看護師が転職してくる。
一方で、人手不足に陥っている病院や施設もある。本当に必要なところに看護師が配置されず、過剰な訪問看護をするために人手を集められたら、医療提供態勢全体がいびつになってしまう。 実は、内部告発があっても記事にできているのは一部だけだ。「同じようなことをしている」という情報が他の事業者についても寄せられている。医療は国民の保険料と税金で賄われる「公共財」だ。事業者には、節度のある経営を望みたい。