このままでは怖いマイクロプラスチック 知らないうちに拡散する脅威の源
《化学物質の吸着と生態系への影響》
海に流れ出たプラスチックのもう一つやっかいなところは、有害化学物質の運び屋となることです。 プラスチックが運ぶ有害化学物質は大きく2種類に分かれます。一つは、プラスチック製品を作るときに加えられる添加剤です。もう一つは、海に漂ううちに吸着される農薬などの汚染物質です。吸着が進むほどプラスチックの中で濃縮されます。それらのプラスチックを生き物たちが食べ、有害化学物質が体内に取り込まれると、食物連鎖によってさまざまな生物に移り、濃縮されながら溜まっていく可能性があるそうです。ただし今はまだ、生き物が食べている餌に含まれる有害物質の方が、プラスチックに含まれる有害物質よりも濃度が高いため、プラスチックを食べることによる健康影響は直接的にはそれほどないと言えるそうです。
しかし、このまま海のプラスチックが増え続ければ、生物の体内に取り込まれる有害物質も増えることになり、生態系への影響が起こらないとは限りません。また、栄養失調や窒息により死んでしまう生物も増える可能性があります。冒頭に紹介した企業や各国政府の動きにあるように、いま対策をとっておかなければ将来的に大きな脅威となり得ることがこの問題の怖いところではないでしょうか。 マイクロプラスチックの影響は、今のところ、実際の生態系では確認されてはいない。しかしこのまま何の対策も打たなければ、未知の危険に見舞われる可能性がある。増え続ける海のプラスチック汚染に、私たちはどう対応していけばよいのか。2回連載でお届けする後編は、その答えを探ったディスカッションの様子を紹介します。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 田中 健(たなか・けん) 1979年、福岡県生まれ。専門は有機化学。廃棄物の適正処理やリサイクル推進を専門とする公務員経験を経て、2014年4月より現職。旅が好きで、年に一度は日本を飛び出さずにはいられない