新婚初夜に「処女ではない」と発覚、兄が元カレを殺害→親戚が事件を小説化!? 『百年の孤独』作者の“ヤバい一面”とは?【話題の南米文学】
■親戚の身に起きた事件を、勝手に小説化 もともとガルシア=マルケスは、お行儀のよい作家というわけではまったくありません。 アンヘラという若い女性が、結婚初夜において処女ではないとバレて実家に戻され、母親から殴られた末に過去に関係したナサールという男の名前を口にすると、アンヘラの兄たちがナサールをナイフでメッタ刺しにして殺す……という実に凄惨な内容の『予告された殺人の記録』という小説を彼は1981年に書いて、ヒットさせています。この作品が100万部を軽々と超えるほど売れたとされるのは、他人の不幸を覗き見するような「おもしろさ」があったからかもしれません。 しかもこの作品は彼の親戚にあたるファミリーの間で、1951年に起きた実際の事件をもとにした「モデル小説」でした。この小説はベストセラーとなると、アンヘラのモデルであるマルガリータ・チータという女性の人生は、彼女の兄が殺人の罪を犯したとき以上にかき乱れてしまいました。マスコミからの取材依頼が、モデルである彼女に殺到したからです。 しかし、抗議の手紙を書いてきたマルガリータをガルシア=マルケスは徹底無視し、慰謝料どころか、わずかなモデル料さえまったく支払いませんでした(以上、藤原章生『ガルシア=マルケスに葬られた女』)。 ガルシア=マルケスは自身を、川端同様の「唯美派」だとみなしていたようですが、その素顔は想像以上に問題児で、彼の作品も人間の業を描いているがゆえに異様な生命力を備えているように感じられてなりません。日本における『百年の孤独』リバイバルヒットの背景も、そのタイトルから想像される以上にナマナマしいものかもしれませんね。
堀江宏樹