新婚初夜に「処女ではない」と発覚、兄が元カレを殺害→親戚が事件を小説化!? 『百年の孤独』作者の“ヤバい一面”とは?【話題の南米文学】
2024年に日本で文庫化し、異例の大ヒットとなったラテンアメリカ文学『百年の孤独』。その作者であるガルシア=マルケスは、日本の川端康成から大きな影響を受けているが、問題児的な部分もあり、作中には数多くの下ネタが登場する。親戚の身に起きた事件をベースにした『予告された殺人の記録』では、モデル人物からの抗議を徹底的に無視するという冷たい一面も見せている。彼の作品歴に迫ってみよう。 ■川端康成『眠れる美女』の南米バージョンを執筆するも… 日本では80年代に翻訳・出版されて大ヒットした、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』。今年になってから文庫化され、リバイバルヒットしていることは文芸界のニュースに詳しくない方の間でも有名でしょう。 興味深いことにガルシア=マルケスは、日本の文豪・川端康成の作品に大きな影響を受けたことを公言しています。しかもガルシア=マルケスは川端晩年の問題作『眠れる美女』を、南米に舞台を移し替えて翻案した『わが悲しき娼婦たちの思い出』という作品まで書いているんですね。 『眠れる美女』についてまとめれば、特殊な睡眠薬で眠らされた裸の若い女性に添い寝することだけを許された老人男性の姿を描いており、なんとも物悲しい読後感がある小説です。川端が睡眠薬中毒に陥っていた時期に書かれた作品ですが、そのわりには充実した内容なので、「川端の弟子だった三島由紀夫がゴーストライターだったのでは」という疑惑もある、曰く付きの作品です(詳しくは拙著『こじらせ文学史』でも触れています)。 川端は1968年にノーベル文学賞を受賞し、1972年に亡くなった後も世界的知名度が高く、「あの」川端作品を下敷きにしたガルシア=マルケスの新作『わが悲しき娼婦たちの思い出』には出版前から注目が集まっていました。 しかし蓋を開ければ、90歳になったばかりのマッチョな老人が自身の誕生祝いとして、14歳の少女娼婦を弄ぶという悪辣な内容で、1990年代に入ってからのガルシア=マルケスの人気の衰えを象徴する作品という評価になってしまいました。 ■巨大な男性器を作品に登場させがちなマルケス 川端の『眠れる美女』において、睡眠薬で眠る女性を選んで主人公の老人が添い寝するのは、「おのれの老醜を若い娘の目にさらしたくない」という男心でもあります。しかし、こうした視点は『わが悲しき娼婦たちの思い出』には見当たりません。 ガルシア=マルケスは77歳(本作執筆当時)にもなってもなお、ラテン男性に見られがちな「男性至上主義」――つまりマッチョ趣味の虜のままという「現実」に世間はヘキエキしたといえるかもしれません。ガルシア=マルケスの新作は「川端作品を冒涜している」という批評さえ出たそうですよ。 まぁ、ガルシア=マルケスには、リバイバルヒット中の『百年の孤独』でもそうなのですが、巨大な男性器の持ち主を作中に登場させる妙なクセがあって、そういう過剰な「男性性」へのコダワリの強さから、彼を「マリコン(スペイン語で、同性愛の男性を誹謗するスラング)」と呼んで忌み嫌う層もいたようです。――などと書けば、ガルシア=マルケスの作品に強く惹かれていた中上健次も、「男性性」への独特のコダわりを作中で見せていたことが想起されるのですが、本題から外れるのでこれ以上の言及は止しましょう。 ガルシア=マルケスは、日本でいう「純文学」の作家のように思われているかもしれませんが、本国のコロンビアにおいては「明らかな大衆作家」で、その著書は発売されるやいなや、道端の露天で海賊版が売られるほどの人気を誇ったそうです。しかし『わが悲しき娼婦たちの思い出』は批評家受けが悪く、あっという間に露天からも姿を消してしまいました。大衆からもソッポを向かれたのです。