「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を論じた気鋭の文芸評論家・三宅香帆と考える「古くて新しい読書の魅力」と未来
本を読む余裕のない社会って、おかしくないですか――。日本人の仕事のあり方と読書を論じた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が売れている。気鋭の文芸評論家・三宅香帆(30)は、愛してやまない「読書」から今後の社会が変わる可能性を探る。 【グラフ】「1か月に本を1冊も読まない人」の割合
京都大大学院に在学中、アルバイト先の書店ウェブサイトに掲載したブログが評判を呼んだ。書籍化された『人生を狂わす名著50』(ライツ社)が「京大生協で最も読まれたブックガイド」として話題となった。これまでに13冊の著作を刊行、動画投稿サイトでも読書や書店の楽しみ方を発信するなど、縦横無尽に活動している。
文芸オタクを自認するが、IT企業に勤めていた3年半は毎日疲れきって本が読めなかった。その経験を発信すると、続々と共感が寄せられた。「『スマホばかり見ていて良いとは思ってないんだよね、本当は』という声をすごく聞いた」
ネット空間で重視されるのは、氾濫する情報から不要なものを除去し、求める情報にストレートに到達するスキルだ。自己決定という名目のもとで無駄なく働くことを求めがちな現代社会とは、とても相性がいい。
対して読書では、知らず知らずのうちに自分と関係のない情報や他者、歴史、社会の文脈に触れることになる。そんな“ノイズ”を、実は多くの人が心の中で求めているのではないか。
「みんながヘルシーに働ける世の中を、私は目指したい」。それは、働きながら本が読める社会にほかならない。
幼少期からインターネットが身近で、中学の頃には書評ブログを上げていた。デジタルネイティブ世代ならではの書評に驚かされる。例えば米国を代表する青春文学、サリンジャーの「フラニーとズーイ」。
ああっわかる、わかりすぎる。頭を抱えてしまう。
結局、自己愛や虚栄心や承認欲求のにおいに敏感なのは、同族嫌悪ゆえである。他人に 苛々しているようで、その実は 自分のエゴのにおいにうんざりしている のだ。(『人生を狂わす名著50』より)