「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を論じた気鋭の文芸評論家・三宅香帆と考える「古くて新しい読書の魅力」と未来
歯切れのいい現代語、改行や空白の多用、要点は太字。書店では自己啓発本やビジネス書と一緒に並べられ、ふだん文学や小説を読まない層も手に取った。「久しぶりに読む人、初めて手に取る人に敬遠されるのはもったいないと思って」。これはネット上でよく見られる書きぶりと、より客観的な書籍の文体との“言文一致”で「明治以来の書き手が努力してきたこと」とさらりと語る。
「私は読むことが好きなので、読書する人が増えてほしい。読書の価値を高めたい。今はSNSなど感想を書く場所も多い。ジャッジが増えることで、新たな面白いものが生まれてくる」。新世代が提唱する、古くて新しい読書の魅力。集団から少し距離を置く、独りで考える時間をもつ。そんな時間の豊かさが、余裕のない社会を変えていくのかもしれない。(編集委員 西田朋子)
プロフィール
1994年、高知県生まれ。『なぜ働いていると――』が23万部のベストセラーとなり、「書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」にも選ばれた。SNS時代の文章術『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(ディスカヴァー携書)も累計15万6000部。京都大では万葉集を研究した。京都市立芸術大非常勤講師。
「1か月に大体何冊くらい本を読むか」…「読まない」62%
文化庁の「国語に関する世論調査」(2023年度)によると、「1か月に大体何冊くらい本を読むか(電子書籍を含む、雑誌・漫画は除く)」という設問に、「読まない」と回答した人が62.6%にのぼった。
「読まない」と答えた人に、SNSやインターネット上の記事など「本以外の文字・活字をどのくらい読むか」と質問したところ、75.3%が「ほぼ毎日」とした。
読書の状況については5年ごとに調べている。前回18年度に「読まない」と答えた人は47.3%、13年度は47.5%、08年度は46.1%と、40%台後半で横ばい状態だった(いずれも参考値)。