貯金元手に早期退職…悠々自適なライフスタイル「ファイア」日本でも注目 覚悟も必要
「だから、心身ともにゆっくりしたかった。ファイアは、死にかけの自分にとっての『命綱』だった」
しかし、自由な時間を手に入れると、ひまを持て余すようになった。「好きなゲームのレベルを上げたり、おいしいものを食べたりしても、自分の価値が変わらないのが悲しかった」。生産性のない、達成感のない空虚なファイア生活に苦悩した。
孤独も感じ、社会とのつながりを欲するようになった。「みんなは週休2日で働いている。自分は『週休7日』。自分だけ立ち止まっているような感覚になり、うつっぽくなった」ため、昨春に宮城県で保険会社に再就職した。
「同僚やお客さん、いろいろな人に仕事を認められた。保険会社は人間関係もよく、仕事を全力で楽しめた。理想の自分を追い求め続けられた」
それでも今年1月、再び都内に戻り、ファイア生活を再開した。最初の失敗を教訓に、保険会社で学んだ経験を生かし、イベントの企画などを通じて人とのつながりを重視する。「いまはめちゃくちゃ楽しい」と声を弾ませる。
■『逃げ』だけでは失敗
不動産会社「AlbaLink(アルバリンク)」が昨年行った調査によると、仕事を持つ男女500人を対象に「ファイアしたいか」と聞いたところ、回答のうち「とても思う」が52・6%、「まあ思う」は25・4%。8割近くがファイアを希望していた。
理由(複数回答)を問うと、「仕事や会社から解放されたい」が最多になった。次いで「時間を自由に使いたい」「好きなことをして暮らしたい」、「働き方を選びたい」|などが続いた。
日本人の働く意識や労働環境に詳しい、リクルートHR統括編集長の藤井薫さんは、ファイア予備軍が多いことについて「企業の寿命が短命化している一方で、働いている人は人生百年時代で長く働く。1つの会社に依存しないで活躍したいという意識の変化が背景にあるのだろう」と分析する。
さらに藤井さんは、リモートワークの普及がこうした動きに拍車をかけているとも指摘する。「自分らしい場所で働きたい、大切な人と一緒に暮らしたいという意識が強くなった。これがファイアを目指す動きとつながっているのではないか」