「英語民間試験」延期 何が一番問題だったのか? 坂東太郎のよく分かる時事用語
2021年1月から導入される予定だった「大学入学共通テスト」の英語民間試験と国語・数学の記述式問題の実施が見送られることになりました。教育関係者や受験生からの異論が根強く、国会でも論戦になりましたが、何が一番問題だったのでしょうか。そもそもの大学入試改革の経緯と合わせて振り返ります。 【図表】センター試験「廃止」問題 2013年の教育再生実行会議の提言内容
そもそもなぜ民間試験が導入されようとした?
1990年からスタートした大学入試センター試験(通称:センター)は事実上、総定員約10万人の国立大学、同約2万6000人の公立大学志望者のうちAO・推薦等を除いたほぼすべてに必須です。また大学生の約8割が通う私立大学の多くも利用しており(センター利用)、すべて合わせた受験者数は60万人近く。これを「新たなテスト」に衣替えしようと最初に具体的な提言をしたのが、第2次安倍晋三政権の私的諮問機関「教育再生実行会議」でした。2013年10月のことです。
センターの役割を一定程度評価した上で「1点刻みの合否判定を助長している」との指摘もあると位置づけ、「知識偏重の1点刻みの選抜にならないよう、試験結果はレベルに応じて段階別に表示」といったアイデアを示したのです。 翌14年12月、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)はセンター試験を2020年1月実施分廃止し、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価する新たなテストを導入する大学入試改革案を答申しました。
「読む」「聞く」「書く」「話す」英語の4技能を測る
この答申で、明確に「解答方式については、多肢選択方式だけではなく、記述式を導入する」「英語については、四技能を総合的に評価できる問題の出題や民間の資格・検定試験の活用により、『読む』『聞く』だけではなく『書く』『話す』も含めた英語の能力をバランスよく評価する」と今日に至る英語の民間試験を導入するプランを盛り込んだのです。 ただし注記で、「各試験間の得点換算の在り方、受検料など経済格差の解消、受検機会など地域格差の解消等に関する具体的な検討が必要であ」ると釘を刺しています。 17年7月、文科省は新たなテストの名称を「大学入学共通テスト」とするなどとした実施方針を公表。「読む」「聞く」「書く」「話す」といった英語の4技能を適切に評価するため、現に民間事業者などによって広く実施され、一定の評価が定着している資格・検定試験を、大学入試センターが認定して活用すると示しました。名称は「認定試験」です。 その必要性について、文科省の補足資料は「話す」「書く」能力を測る試験はセンター試験のように「大規模、同日に一斉に試験を実施することは困難」であるとする一方、民間の資格・検定は社会的に認知され、一定の評価が定着しているとしたのです。要するに、民間試験活用(認定試験)の方が現実的だということです。 また2021年以降、大学入学共通テストで英語は行わず認定試験に一本化する案は、各団体から否定的な意見が多かったため、23年度までは英語の共通テストを実施し、各大学の判断で「共通テスト」と「認定試験」のいずれか、または双方を選択利用することを可としました。もっとも認定試験のあり方も示されていて「活用に努めよ」との文言も含まれています。 中教審答申の注記で指摘された問題点については「できる限り、センター試験と同等以上の実施場所を確保できるよう、試験団体と調整を図る」、検定料は「受検者の負担が極力増えないよう、大学受検者全体に対する抑制に加え、低所得者世帯の受検者の検定料減免などの配慮を求める」とし、重要性は認識しつつ、まだこの段階でも曖昧なままです。