「英語民間試験」延期 何が一番問題だったのか? 坂東太郎のよく分かる時事用語
国語と数学の「記述式問題」も導入見送りに
共通テストでは、ほかにも国語と数学の「記述式問題」への疑問が噴出しました。「思考力・判断力・表現力」を測るべく導入が決まったのですが、主に「誰がどう採点するか」が解決していませんでした。公平さを厳密に測定するには「正解」が必要ですが、それがないからこその「表現力」なのです。この根源的ジレンマを抱えたまま60万人近くもの受験生の解答を、誰が採点できるのでしょうか。現に試行調査で受験生の自己採点と大学入試センターによる採点の不一致率が、国語では約3割に上りました。 しかも、センター試験の悪弊だと敵視した手前、国語では「1点刻み」でなく「5段階評価」の枠組みに放り込まれます。自己採点で「B評価だろう」と思って相応の大学へ出願してみたら、実はわずかに及ばずC評価だったと分かっても、文字通り後の祭り。だとしたら、1点刻みの方がまだ納得できるという不信が根強く残っているのです。結局、この記述式試験についても、2021年1月からの導入は見送られることになりました。
民間試験導入問題の当事者は誰なのか?
ここでは英語の民間テスト導入で影響を受ける高校生について分析します。
(1)大学進学しない高校生
厳密には国内の国公私立大学に進学する意思がなく、ゆえに受験もしない高校生です。正確な数値は出せませんが、高卒者と大学受験者の比で推測すると約5割弱になるでしょうか。 この層は、共通テスト自体を受けないと思われるので関係ありません。ただ「関係ない」で済ませられない、高校教育のあり方にかかわる大問題が横たわっています。 文科省などは、英語4技能の育成は「高等学校学習指導要領」で既にうたわれており、それを測るために民間試験活用などの入試改革を行うと説明しています。でも指導要領は「最低限教えるべき教育内容を定めている」(文科省)基準。よって大学進学云々に関係なく高校が全生徒に4技能を教え、評価しなければならないはずです。それができているならば調査書などで確認すればいい。逆に、できていなければ高校のあり方を議論すべきでしょう。 もう1つ、「地域格差」「経済格差」は民間試験導入の議論の中で初めて浮上したのではなく、むしろこれまで散々問題視されてきたテーマを顕在化させたという順序にあります。大学になど行きたくない、行かないと主体的に選択したのであれば立派な判断だし尊重されるべきです。しかしさまざまな研究で明らかなように、こうした格差は、すでに学習意欲や進学志望に多大な影響を与えています。その意味で、今回の騒動は該当する現高校2年生には甚だ迷惑だとはいえ、隠れていた教育格差の問題をクローズアップさせた“功績”もあったといえるかもしれません。