五郎丸のラグビーW杯 最後の涙の理由
2015年10月11日、イングランドはグロスターのキングスホルムスタジアム。ラグビーワールドカップイングランド大会でのアメリカ代表との予選プールB・最終戦で、日本代表は純粋に勝利を目指した。 わずか7点リードと、予断が許されないなかで迎えた後半36分。フランカーのリーチ マイケル主将に促され、フルバックの五郎丸歩副将がペナルティーゴールの用意に入る。 静寂のなか、いつもと同じフォームで、いつもと同じ真っ直ぐな軌道を放つ。決まった。28-18。しばしの攻防の末、ノーサイドの時を迎えた。 ワールドカップで24年間未勝利だったジャパンは、今回、1大会で3勝を挙げた。世界中で快挙と報じられた。この結果は、今後の国内での競技普及に大きな意味を及ぼすと、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は考えている。 「日本のラグビーにインスピレーションを残したかった。いまに、日本中の子どもたちは鏡の前で五郎丸のキックのフォームを真似するでしょう。リーチも、ヒーローです。子どもたちはヒーローに憧れる。それは、ラグビーに限ったことじゃない」 一方、五郎丸は。立て続けにおこなったテレビのインタビュー中、せきを切ったように涙を流した。勝ったからではない。人気が出そうだからでもない。勝っても、目標としていた決勝トーナメントに行けなかったからだ。 「…やっぱり悔しかったですね。3勝はしましたけど、我々の目標を達成できなかったので。人生観、変わったでしょうね。満員のトゥイッケナム(予選プールBからの準々決勝進出チームの試合会場)で試合をやったら…」 試合2日前、椅子に座ってペン記者の取材に応じていた。勝ち点の都合上、アメリカ代表を制しても準々決勝に進めない可能性がある旨を聞かれると、「ずっと言っているように、我々はチャレンジャー。他の試合の状況を気にする立場ではないです。目の前の試合に向けて準備するだけ」と強調していた。もうずいぶん、この手の質問を受けている。うんざりしていても不思議ではあるまい。