五郎丸のラグビーW杯 最後の涙の理由
大会前から各種メディアに引っ張りだこで、19日に過去優勝2回の南アフリカ代表を34-32で制すると(ブライトンコミュニティースタジアム)、さらにその人気が沸騰。大会がチームに与えたノンメディアデー(メディア対応をしなくてもいい日)も取材を受けていた。 ――チームの雰囲気は。 「いいんじゃないですか」 ――どこでそう感じましたか。 「全てにおいて、です。全てです」 そう。自身が過剰に注目されたり何かと意見を求められることを、喜んではいなかったかもしれない。こうも言った。 「ラグビーにヒーローは存在しない。皆、1人ひとり仕事を全うしている。自分は100パーセントのプレーをするだけで、結果に対しての評価は周りがしてもらうのであって、そこに関してはコメントをしないです」 もっとも、「シンプルに表現すれば、最高です」とも話していた。29歳にして初めてのワールドカップでベスト8を目指す旅を、純粋に楽しんでもいた。 ある選手によれば、苛烈な指導者だったエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は選手に「ワールドカップでは、いい思い出も作るように」と伝えていたという。スパルタ指導で鳴らす高校野球の監督が、甲子園に入るや部員に自由を与えるのに似ていなくもない。相手の分析に注力した準備、往復のバスから見えるファンの熱気…。4年に1度の祭典のただ中で五郎丸が再認識したのは、チームへの愛着だった。 以下の言葉は何度も、繰り返された。 「選手ももちろんそうですが、スタッフと呼ばれる方はその倍くらいは、動いている。そこへの信頼関係も強く、サポートに応えるためにも…という気持ちはあります」 「結果を気にせず試合に集中する」我々も気を抜けば、我々の望まない結果が待っている可能性がある」と危機感も示していた。そして当日、他会場の結果を受けて予選敗退が決まったなかで「結果を気にせず試合に集中する」。それでもゲームが終われば「何とも言えない。曇り空のようでした」。最後の最後まで、繊細な心を揺らし続けていた。