五郎丸のラグビーW杯 最後の涙の理由
試合直前、ジョーンズHCもロッカールームで涙を流していたという。五郎丸は「先頭に立って引っ張ってくれていたし…このチームへの思い入れが強かったと思う」と振り返った。 猛練習が日常茶飯事の現体制下で4年間、レギュラーを張った。「自分でも(よく戦い続けたと)思います」とこぼしたこともある。世界各国から集まった指導陣に、心身両面での負荷を課されてきた。ただ楽しかったわけではあるまい。それでも自分の時間を犠牲にしてその潮流に乗ったのは、「日本ラグビーの歴史を変える」というチームの意志に共鳴したからだ。 「1年目の時の上半身裸の写真を見たら、全然ガリガリで…。でも、いままで出会った人たちすべてが必然だったと思います。選手、スタッフ、ここに来る前にメンバーから漏れた仲間も、すべて…。歴史を変えるために、必要だった人たちです」 勝てなかったワールドカップで勝ったのだ。「日本ラグビーの歴史を変える」というミッションは、概ね果たされたともいえよう。ただ、「満足はしていない」とリーダーは言う。例えば今大会では9月23日にグロスターでスコットランド代表に10-45で敗れ、この日のゲームも最後まで一進一退の攻防が続いている。五郎丸は言った。 「世界で勝つことは、簡単じゃない。今回、3勝できたからといって次はベスト8…というほど甘くはないので。(求められるのは)練習量だけではないと思う。環境面もそうですし…選手にとって、ハッピーな状況になれば」 ここでの「環境」について、五郎丸は明言しなかった。ただ、大会前から「代表選手への補償問題」や「2016年から発足するスーパーラグビーの日本チームの整備状況」を問題視してきた選手はいる。現代表チームが勝ったのは事実だが、それで日本ラグビー界が勝ったと言い切るのは早計かもしれなかった。 五郎丸は今大会4試合で計58点、ペナルティーゴール成功数は大会暫定1位の13本をそれぞれ記録。国際舞台で、不動のキッカーとしての居住まいを示すことはできた。アメリカ代表のフルバックであるクリス・ワイルス主将にも、「本当に尊敬している」と評価された。戦い終えたばかりの折は「いまはまだ、反省する時間じゃない」。4年後にある日本でのワールドカップを目指すのは、帰国して、ひと息ついてからであろう。12日、帰国の途につく。 (文責・向風見也/ラグビーライター)