仙台育英、頂点に3年間挑み続けた「エーストリオ」 高校駅伝女子
京都市で22日にあった女子第36回全国高校駅伝で、頂点まであと一歩届かなかった仙台育英（宮城）。チームの中心には、優勝候補の重圧に耐えながら3年間、悲願に挑み続けた「エーストリオ」がいた。3年ぶり6回目の優勝を狙ったが、今年も2位。悔し涙を流しながらも「3年連続銀メダル」という勲章を胸に、都大路を後にした。 【写真特集】全国高校駅伝 女子は長野東が優勝 アンカー・5区の細川あおい（3年）はフィニッシュ後、倒れ込み、そのまま立ち上がれなかった。たすきを受け取った時点で先頭との差は31秒。諦めてもおかしくない差だが猛然と追いかけた。残り1キロ付近で2位を捉えても勢いは止まらず、先頭を追い続けた。釜石慶太監督は「3年間の思いのこもった走りだった。いい顔をしていた」とたたえた。 細川にとって「三度目の正直」になるはずだった。1年目は自らがアンカー勝負で敗れ14秒差で2位。昨年は1区3位と好走したが、チームはフィニッシュテープ目前でかわされ1秒差に泣いた。「今年は笑顔で終わろう」が合言葉だった。 山形市出身で、卒業生の小海遥（現・第一生命グループ）らに憧れ仙台育英の門をたたいた。主将就任後は伝統の練習をただこなすのではなく、一つ一つの意味を考え、自分たちに必要か問い直した。やれることはやった。でも及ばなかった。細川は「諦めなければ抜けると思っていた。でも30秒をひっくり返す力がなかった」と自身を責め続けた。 デイシー・ジェロップ（3年）は泣きはらす細川らを見て「どうしてそんなに泣くの」とチームメートに尋ねた。優勝できなかった悔しさはある。でもみんなで全力を出し切った。 「ネクストイヤー、チャンピオン」。来年勝つため、後輩に悔しさを託すための涙なのだとチームメートが説明すると、ジェロップは「そうね」とうなずいた。 ケニアから留学したが、異国の地で寒さにも慣れず、力を出せない。それでも仲間たちの刺激を受けて成長し、都大路は1年時2区を走って区間2位、2年では2区の区間賞を獲得してチームに貢献し、順調に力を伸ばした。 今年は3区の起用で、たすきを受けたのは9番手。「『どうする』と思いながらとにかく抜いた。3キロはとても短かった」。苦手な上り坂も踏ん張った。「ラスト、めっちゃきつかった」。同級生から学んだ日本語を柔らかな声で話した。古里が恋しいだろうと、釜石監督の妻がトウモロコシの粉を練ったケニア料理「ウガリ」を振る舞ってくれたこともある。 「チームはみんな優しい。私のサポートをしてくれた」。走り終え、表情には充実感があった。 長岡みさき（3年）は仙台育英の地元、仙台市出身。長町中の1年時はサッカーに取り組んでいたが、駅伝部に助っ人を頼まれ、たすきをつなぐ楽しさを知った。 「いつも2番なんです」と長岡はいう。中学時代も800メートルは県内2番手で、過去2回出場した都大路では、いずれも4区区間2位、総合2位。フィニッシュ直前、1秒差に泣いた昨年の都大路はとりわけ悔しい2番だった。 母亜紀子さん（51）は、普段はあまり泣く姿を見せない娘が昨年、「私が1秒縮めていれば」と泣きはらしたのを覚えている。 悔しさを力に、この冬に合わせるように調子を上げてきた長岡に、監督も「本物になった」と目を見張った。初めてエースぞろいの1区を任されると起用に応え、区間1番を狙うのではなく、ライバル校を逃さない走りに徹した。前を走る相手に食らいつき、3番手と好位置で後続につないだ。沿道で応援した亜紀子さんは「最高の走りでした」と目を潤ませた。 歯車がわずかにかみ合わず、逃した優勝。釜石監督は、悔し涙を流すメンバーや走れなかった生徒らに「ここで終わりじゃない。人生は続く」と語りかけた。そして「苦しい時、そばにいてくれた人を大切に」と言葉を贈った。 3人は、それぞれ大学でも競技生活を続ける。長岡は「苦しい時期もあったが」と言って声を詰まらせ「最後はエースとして仕事ができたかな。全力を出し切った」。細川は「今年を経験した子もチームに残る。プレッシャーに負けずにリベンジしてほしい」と後輩に夢を託した。ともに苦楽を分かち合った3年生同士、「ありがとう」と言葉を贈り合った。【百武信幸】
