日本の性教育はなぜ遅れているのかーー高校生に「人間と性」を教えた元保健体育教員が語る、盛り上がりとバッシング #性のギモン
性教育にブレーキがかかる背景は
日本の性教育で唯一変わってきたのが、アイデンティティーに関することだ。文部科学省は2015年に、性同一性障害や性的マイノリティーとされる児童・生徒に対して、自認する性別の制服や髪形を認める、呼称や名簿順も自認する性別として扱うなど、きめ細かな対応をするように通知を出している。 ――制服が男女の区別なく選べる学校も増えています。 「典型的な男の体、女の体ではない人たちがいるということは科学的にも明らかになっています。アイデンティティーに関することは人権の問題として扱われる必要がありますから、文科省もかなり力を入れて対応してきました」 「ところが、セックスがからむとダメなんです。“異性愛絶対主義”になってしまう。生殖の性しか認めないから。中学校の保健体育の学習指導要領でも『思春期になると異性への関心が高まったりする』と書いてありますよ」 「なぜそういうことになってしまうのか。明治期につくられた男性中心、家中心の考え方にいまだに支配されているからです」
――明治時代にまでさかのぼるんですね。 「明治になって、家父長制が法的に確固としたものになりました。近代の家族のあり方です。父親を戸主とし、その下に母親や子どもたちがいると定められました。その価値観のもとでは、異性愛以外の多様な性は認められないし、女性が主体的に考え行動することや、財産を持つこともできなくなりました。戦後になって、個人の尊重、男女平等の世の中に変わりましたが、近代から現代への転換が不十分なまま、制度上でも精神的にも家父長制がずっと残っています」 「男性中心の仕組みが変わっていないのだから、性教育だけが進むはずがありません。先日、ジェンダーギャップ指数が発表されましたが、日本は146カ国中116位でした。上位の国は性教育にも熱心です。日本はブレーキをかけようかけようとしています。仕組みから変えなければ、性教育だけがよくなるなんてあり得ないと思っています」