なかなか一歩が踏み出せない。雑誌記事から見る「老眼鏡」への複雑な心境「コソコソするからいけないんだ。恥ずかしがらずに堂々とやれ!!」
創刊以来、《女性の生き方研究》を積み重ねてきた『婦人公論』。この連載では、読者のみなさんへのアンケートを通して、今を生きる女性たちの本音にせまります。加齢とともに生じるさまざまな《不便》。それをカバーするために、していることはありますか?今回は「老眼」や「目の不調」についてリアルな声を集めました。 中高年女性に聞いた、使ってラクになった、加齢による不便を助けるグッズ1位は? * * * * * * * ◆とうとう来たか 〈夜、ベッドで本を読んでいると、腕がバカに疲れるのだ。気をつけてみると、私は腕を一杯に伸ばし、本を遥か五、六十糎も彼方に持って読んでいるではないか。 これじゃ疲れるわけだワイと本を手元に引き寄せてみると余り明るくないベッドランプの下、活字はぼんやりと滲んで崩れ、殆ど判読出来ないではないか。 /とうとう来たか!! ――私はガク然とした〉 これは『婦人公論』1983(昭和58)年6月号に掲載された、野際陽子さんのエッセイ「私のメガネ」の一節です。 それから数年間のらりくらり引き延ばし、そろそろ限界という47歳の誕生日、友人に「ローガンキョー」をプレゼントされた野際さん。いざかけてみると、読む時にしか使わないコレの扱いは、案外難しい。 〈読む時に何気なくバッグから取り出し、終ると何気なくしまう……という事になるのだが、(略)どうもオドオドした感じになってスマートにいかない。(略) コソコソするからいけないんだ。恥ずかしがらずに堂々とやれ!!――と自らを叱咤しても、スマートで知性的なローガンキョーの扱いをするにはまだまだ修業が必要だ〉(同)
◆森英恵やキンキンも… すでに「読めない」という不便があるのだから、手に取ればいいとはわかっている。でも逡巡してしまう……。ズバリ「実例研究 老眼鏡ショック」(82年1月号)という原稿を寄せたのは評論家の有馬真喜子さん。 〈かけたくないのである。かけた姿を人目にさらしたくないのである。メガネで「年をとりました」と宣伝したくないのである〉。 一歩踏み出せない思いを抱えた有馬さんは、さまざまな老眼鏡ユーザーたちにアドバイスをもらうことにした。 老眼鏡を26個も持っていて、洋服の色に合わせフレームを選ぶという秋山ちえ子さん。 石垣綾子さんは「老眼鏡はかけるべきですよ。年をとると目が小さくなるけれど、老眼鏡だと拡大して、若いころのように大きく、パッチリ見せてくれますよ」と断言する。 老眼鏡向きのフレームのデザインを始めた森英恵さんのメガネは、べっこう色の縁の真ん中に、金色のチョウが遊ぶ。 キンキンこと愛川欽也さんは、雑誌『スクリーン』をペラペラ捲り、ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードのものとそっくりのメガネを作ったそう。 有馬さんの文章からも、老眼鏡の受容には、その人の性格・嗜好が出ているように思えます。最後に吉行淳之介さんが65年9月号に寄せた文章を。 〈眼鏡をつくっても常時かける気持はないので、たとえば若い女の子とレストランへ行くとする。(略)そういう女性と差し向いになり、ボーイがメニューを手渡してくれたとき、内ポケットからおもむろに老眼鏡を出してかける。オーダーを終えると、また内ポケットに収めてしまう。……そういうことをやってみるのも面白い、という趣味的な心持なのである〉 さすが「文壇一のモテ男」。老眼鏡も演出になっています。 次回は「足腰」や「耳」のお悩みを解消した体験談をご紹介します
「婦人公論」編集部
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