繊細な手技を未来へと繋ぐ「うちわの太田屋」
ーこれまでうちわ作りを続けてきたなかで、お客様とのやりとりや印象に残っていることはありますか。 ありがたいことに「伝統工芸品を応援したい」という方がちょこちょこ訪ねてきて注文してくださったり、「今度こういうものを作りませんか」とアイディアを出してくださったりして、そういう人と人との繋がりが刺激にもなっています。 今、天井にかけてあるうちわも最近、あるデザイナーさんとの出会いによって生まれたもの。片面は切り絵の和紙を、もう片面は浴衣の生地を貼っていて、切り絵の部分から裏の浴衣の生地が透けて見えるんです。 切り絵はパソコン作業が得意な娘のお婿さんにも協力してもらい、レーザーカッターを用いて制作しています。私が「こういう絵柄はどうかしら」と相談すると「お母さん、ここを切り抜いてしまうと骨に貼りにくくないですか」と細かなところまで気がつく人なので助かっています。今度、夫と娘とお婿さんと4人で会議しなくちゃね、と話しているところなんです。 この工房でうちわ作りをしているのは私一人ですが、こうしていろいろな方に関わってもらってうちわができていく過程が楽しいですね。
うちわ作りの1から10までをできるよう技を繋ぐ
ー太田屋さんではうちわ作り体験の教室も開いていますよね。 はい。工房の敷地内にある教室でのうちわ作りの体験は夫が担当してくれています。私の手が回らなくなってしまったときに、それでも日々「体験はできますか」とお問い合わせをいただいていて「それなら僕がやろうか」と言ってくれたんです。 体験に来る方の年齢層は幅広いですね。お子さんやお孫さんと一緒にいらっしゃる方も多いですし、先日はアメリカからグループでいらっしゃったお客様もいました。 それとは別に、講師としてお声がけいただき、多いときは週に1~2回ほど、近隣の施設に宿泊学習で来ている子どもたちに教えに行っています。 ー子どもたちにとってはもちろん、先生方や親世代の方にも房州うちわを知ってもらういい機会となっているのですね。太田さんにとって房州うちわはどのような存在ですか。 私にとってうちわ作りは家業であり、商売です。売れるもの、お客様が欲しいと思ってくださるものを作っていく。ただ、自分の手で何かを作れることはどんな仕事でも楽しいですよね。 何でもそうですが、辞めることは簡単です。けれど、自分がよかれと思って続けるのだから後悔することのないようにしたいなと思います。今まで通り、楽しんでうちわ作りを続けていけば、また新たな人との出会いや、あるときふっと新しいものが作れるようになるかもしれないですし。そんな期待感も持っています。