繊細な手技を未来へと繋ぐ「うちわの太田屋」
1本の丸い竹から、21の工程を経て作り上げられる
ーほかの産地のうちわより工程数が多いと聞きました。1枚のうちわができるまでの流れを教えてください。 房州うちわは21工程で作られ、そのほとんどが手作業です。 材料である竹を選別することからはじまります。自然のものだから当然、まっすぐな竹ばかりでなく、曲がりやよじれ、虫食いや傷もありますので、商品になるものとならないものを分け、さらにうちわの大きさごとに竹を選別します。 特徴的な工程をお話しすると、まずは、柄の部分を残して竹を48本から64本に割き、うちわの骨を作る「割竹」の工程です。同じ太さ、同じ厚みで割けていないと綺麗なうちわにはなりません。私が子どもの頃は、友だちと近所を駆け回って遊んでいると路地裏や家の軒下に竹を割いた状態のうちわがいっぱい並べてあり、家の中にも紙を貼ったうちわがたくさん干してありました。 うちわ作りをはじめた人に一番難しいと言われるのが、うちわの骨を糸で編んでいく「編竹」の工程です。骨を左右交互に取りながら編み、円形の竹の骨を平面の扇型にしていきます。 その後、柄の上部に「弓」と呼ばれる部材を差し込んでうちわの骨を広げ、弓の両端に糸を結びます。型をあてて、糸が作る曲線を整えることで房州うちわの特徴である立体的な「窓」が出来上がります。力を入れすぎると竹が割れてしまうので、どの工程も繊細で感覚を必要とします。“いい加減”というやつですね。
ー一年のうち、製造のピークはいつ頃なのでしょうか? 6月から7月前半までが出荷のピークです。冬の間に竹を切り出し、骨の状態まで作っておいたものをためておき、それを少しずつ使っていきますが、忙しいと骨の貯蓄がゼロになってしまいます。 ー現在、房州うちわを製造されている工房はどのくらいあるのでしょうか。 現在は3軒ありますが、うちわ作りを専業としているのは当工房だけです。ピークのときは50軒ほどの工房がありました。昭和初期には年間約800万本が生産されていたのだそうです。現在の生産量はその1/10ほどです。 ー工房数や生産量が減少した理由は何だと考えられますか? 扇風機やクーラーが出てきたことによってうちわが使われなくなり、需要が減ったことが大きいのではないでしょうか。工房側では、うちわ作りをされていた方が高齢のため亡くなり、後を継がれる方がおらず工房自体がなくなることがほとんどだと思います。