サッカーコラム 鎌田大地への人種差別を反面教師に 愚行は少なくとも日本では2度とあってはならない
【No Ball、No Life】イングランド・プレミアリーグ、クリスタルパレスは11月10日、日本代表MF鎌田大地(28)に対して9日のホームでのフラム戦で人種差別行為があったとの報道を受け、調査に乗り出したと発表した。 この試合、鎌田は危険なタックルで一発退場処分を受けた。相手サポーターは、ピッチを去る同選手へ人種差別的な暴言を浴びせたという。その内容は明らかにされていないが、クラブは「いかなる形態の虐待に対しても一切容認しない方針をとっている。加害者と断定された人物には最大限の措置を取る」との声明を出した。 残念な話だが、このような差別問題は後を絶たない。それはピッチ内だけでなく、社会問題として、とりわけ欧米諸国では深刻なものとなっている。かつて記者はスペインを拠点にサッカーを中心とする欧州のスポーツを取材していた。同国のスタジアムでは、あるブラジル人選手を猿と見なして猿の好物であるバナナを投げ入れる悪質な差別行為を目にした。猿の鳴きまねもいくつかの会場でも聞かれ、聞くに堪えないものだった。 もちろん差別は他国でもあり、ピッチ内に限ったものではない。2018年W杯ロシア大会では、ロシア人とみられる男性に「日本人はくるな」と銃口を向けられたことがあった。このように銃を突きつけられることはそうそうないが、スペイン、欧州各国で暮らす日本人の仲間も嫌な思いを何度も経験しており、人種差別は欧米社会の中に根強く残っている。 問題はモラルの有無だ。日本は小学校から道徳教育を行い、家庭でもその教えは厳しい。震災でも「火事場泥棒」は少なく、商店を荒らすような暴動はまず起こらない。日本人のモラルの高さは世界的にも高い評価を得てきたし、欧州に駐在していたときはそれを誇りにしていた。 ここ数年、日本でもそのモラルは低下しているように思える。禁煙地域での喫煙、タバコのポイ捨て、「闇バイト」にみる善悪の思慮の浅さ。多様性という言葉のようにそれぞれの自由な考えが尊重される社会となっているが、日本人が長きにわたり培ってきた道徳性という根本的なものを欠く時代となってきているのではないだろうか。 話はそれたが、苦しみ、怒り、むなしさが残り、何一つ得することのない人種差別はあってはならないもの。過去には浦和や横浜Mなど、Jリーグでもいくつかのクラブでもサポーターによる愚行はあった。今回の鎌田に対する差別問題を反面教師としてとらえ、日本では2度と起こさないことがそれぞれの務め。日本サッカーの発展にもつながる。(一色伸裕)