《記者コラム》〝インフレ先進国〟ブラジルに学べること 「インフレ連動型国債」個人売買可能にしたら! 日本のインフレ指数は庶民感覚とズレ
インフレを起こして債務を減らしたい国
「良いインフレ」があるかどうかという議論において、為政者側にはあるが、庶民側にはないというのがコラム子の主張だ。 日本経済新聞22年8月21日付《インフレ税とは お金の価値低下、政府の債務「圧縮」》には、《【インフレ税】物価上昇(インフレーション)でお金の価値が下がることで政府の借金の返済負担が実質的に軽くなること。債務の額をインフレ率を上乗せした値で割り、減った分がインフレ税にあたる。例えば100億円の債務があって10%のインフレが起きた場合、実質債務は約90・9億円、差分の9億円強がインフレ税となる》とある。 つまり、どの国においても政府側には巨額の債務を減らすためにインフレを起こしたい理由が常にある。時の政権の考え方がインフレ対策に影響し、純粋な金融政策だけで判断されるわけではないという意味では不安な部分がある。 ブラジルに関して言えば、IPCAを決定するIBGE総裁も、Selicを決める中銀通貨審議会のメンバーも、大統領が指名する。だから基本金利の上げ下げに影響するインフレ数値、およびSelic決定自体に政治的な力が影響する可能性がある。とはいえ、どこの国でも中銀が完全に独立して判断しているところなどないだろう。日本を含めて。 ジウマ第2期政権の時も、IBGE発表の失業率が肌感覚より低かったり、インフレ率が上がって来たのに当時の中銀総裁がなんのかんのと言い訳を付けてSelic上昇を遅らせたためにその後、ブラジル経済が不況に突入したという苦い経験がある。 一方、日本政府について考えてみると、莫大な国民のタンス資産をインフレ上昇によって眠らせておけない状況に追い込み、あえて個人売買可能な「インフレ連動型国債」を作らず、博打同然の株式に投資させようとしているように見える。そっちに誘導するために、株式や投資信託の配当金や分配金、値上がりで得られた売却益が非課税になる国の制度NISAまで作って後押ししている。 だが、国民にとって本当に必要なのは、博打のような株式投資ではなく、安全な国債購入ではないのかと心底思う。政治家とか財務省官僚、そちらに寄ったエコノミストは「良いインフレ」を振りかざすことは一定の理屈になるのだろうが、庶民にとっては幻想に過ぎない。(深)
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