《記者コラム》〝インフレ先進国〟ブラジルに学べること 「インフレ連動型国債」個人売買可能にしたら! 日本のインフレ指数は庶民感覚とズレ
庶民の感覚からかけ離れた日本のインフレ率
ブラジルではハイパーインフレの経験を経て、庶民の生活を守るためのいくつかの対策が生まれた。その主だった3点を紹介したい。 一つ目は、業種ごとの組合が毎年インフレに連動した昇給率を定め、傘下企業は必ず昇給させると定められている件だ。この時に参考にされるインフレ率が広域消費者物価指数(IPCA)で、それに近い数字で翌年昇給となる。 IPCAはブラジル地理統計院(IBGE)が毎月発表するもので、8月公表したデータによれば、12カ月累積では4・24%だ。 ブラジルのIPCAには生鮮食料やエネルギーなどが反映されるが、日本のインフレ率「消費者物価指数」(CPI)のコア指標には反映されない。このインフレ率の計算が本当に曲者だ。
庶民のお財布感覚からかけ離れたコア指数
コラム子からすると、庶民のお財布感覚からかけ離れているという意味で、日本のインフレ率計算は限りなく〝ウソ〟に近い。なぜなら【図表1】にある通り、日本など先進国の中央銀行が出すインフレ率、コアやコアコア指標には生鮮/食料やエネルギーが除外されているからだ。 北海道ニュースUHB9月25日付《【値上げ】止まらない物価の上昇… 10月に値上げされる食品・飲み物は2024年で最多の約3000品目》には、《物価の上昇が止まらない中、10月に値上げされる食品や飲み物は約3000品目と、2024年で最も多くなるといわれています》とし、「うまい棒」が22年に続いて2度目の値上げを9月に発表、チョコ菓子「きのこの山」「たけのこの里」も6月に続く値上げ、湖池屋のポテトチップも1割前後値上げ、亀田製菓の「ハッピーターン」の1~2割値上げとある。 これが庶民感覚ではないか――。 だが日銀サイトの説明では《物価動向の分析にあたっては、現実に観測される消費者物価の動きから、様々な一時的要因の影響を取り除いた、基調的なインフレ率(いわゆる「コア指標」)がよく利用されています》とされている。なぜ除外するかといえば《日本銀行は、金融政策の運営に当たって、毎月公表される消費者物価から基調的な変動を見極めるため、総合指数に混入している一時的な撹乱要因を除外した各種コア指標を利用している》と説明している。 つまり、季節や気候による変動で生鮮な野菜や魚および肉、為替変動や戦争などの突発的な動きで石油価格が変動するなどの価格の動きは一時的なものだから、中長期的な経済見通しを考えるときには《一時的な錯乱要因》になると、日本銀行は考えて除外している。 ちなみに、総務省統計局サイトが9月20日付で発表した消費者物価指数は、(1)総合指数は2020年の物価を100として計算した場合、109・1なので、前年同月比は3・0%上昇した。 ところが(2)「生鮮食品を除く総合指数(コア)」になると108・7になり、前年同月比は2・8%上昇と総合指数より0・2%低くなる。 さらに(3)「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア)」は107・4となり、前年同月比は2・0%上昇まで下がる。この(2)や(3)が指標として主に使われるので、インフレ率が実際の生活感覚より低く見える。 インフレ率を3%として考えるか、2%として考えるかの差は実に大きい。前述したとおり、《日本のインフレ率が現在もし3・5%なら、20年で給与の価値は半分になる計算だ》なので、総合指数が3%であれば給与の価値は20年で半分近くになる。恐ろしいことではないか。それを基準に考えない感覚がすでにずれている。 庶民のお財布感覚からすれば、スーパーやガソリンスタンドで使うお金が一番、インフレを肌身に感じる。消費者はスーパーに毎月行くだけで、1カ月間の間に値上がりした商品を把握でき、レジを出るときには購入した商品の合計価格が値上がりを財布で感じる。 にも関わらず、指標「コア」や「コアコア」だとスーパーで売っている生鮮野菜などが反映されない。だから、庶民のインフレ実感とはかけ離れた財政政策になる。
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