《記者コラム》〝インフレ先進国〟ブラジルに学べること 「インフレ連動型国債」個人売買可能にしたら! 日本のインフレ指数は庶民感覚とズレ
日本にはない「インフレ連動型国債」個人売買
インフレ対策の違い2点目は、日本では「インフレ連動型国債」を個人が自由に売り買いできないが、ブラジルでは可能で、多彩な商品が用意されているという点だ。 IPCAが大事なのは給与の昇給計算だけでなく、いろいろな数字に影響を与えるからだ。日本との決定的な違いの一つである「インフレ連動型国債」(TESOURO IPCA+)にもこのIPCAが使われるからだ。ちなみに現在売られている「TESOURO IPCA+ 2029」はIPCA(4・24%)に加えて年利6・55%(29日現在)がつくから、合計10・79%の年利が国家によって保証されている。最低価格は32・33レアル(845円)から買える。 つまり、IPCAが庶民のインフレ感覚に近い数字を出している限り、IPCAに利子をプラスしているから、どんなにインフレが高騰しても損をすることはない。庶民でも容易にインフレ対策できる方法を政府が提供している。 このテゾウロ・ジレットというオンライン国債販売プラットフォームは、連邦政府が2002年にB3と連携して開発したシステムで、連邦政府債を100%オンラインで個人向けに販売する国庫プログラムだ。国債へのアクセスを民主化することを目的として創設され、最低30レアルから投資できる。さまざまなタイプの収益性(固定金利、インフレ連動、経済基本金利連動)、各種満期を持つ国債を提供している優れもののシステムだ。 ちなみに、「経済基本金利連動型国債」(TESOURO SELIC)は、経済基本金利(Selic)に連動しており、現在それが10・75%に上昇し、更に数回上がるとの予測が行われている。11%前後の年利だからお得だ。IPCAが上がればSelicも上がるという意味で、インフレ連動している。
インフレ以上に最低賃金を引き上げる政府方針
3点目は、ルーラ政権の特徴である「インフレ率以上に最低給与(現在1412レアル=3万6941円)を上げる」という政策だ。そもそも日本で「最低賃金」と聞いても、あまりピンとこない人も多いかもしれないが、ブラジルにおいては庶民の給与は「最低賃金幾つ分」という形で契約されることが多いから生活に直結する。 インフレが貧困層や年金受給者を直撃することを左派政権は良く分かっているから、最低給与を引き上げることで、それに連動した給与や年金金額、継続的現金給付(BPC)を引き上げ、労働者や高齢者・障害者の生活を守る方針を貫いている。ただし、それをすると政府支出が際限なく拡大するから、庶民にとっては良いが財政バランスの面では不安定になりやすく、両刃の剣だ。 あと、日本と違ってブラジルには政権交代があるから、インフレが上がれば左派大統領候補に票が集まるという傾向が生まれ、長い目で見てインフレと昇給のバランスが維持される。 政府に年金も何も払っていなかった最貧層でも、65歳を過ぎたら最低賃金がもらえるという「継続的現金給付」(BPC)は、生活保護的な制度で一種のセーフティネットだ。 BPCの受給資格を得るには、家族の一人当たりの所得が最低賃金の四分の一以下でなければならない。つまり、最貧家庭層向けの現金支援だ。BPCは年金システムではないので、国立社会保障院(INSS)に加入して年金を払っていない人でも受け取れる。その条件を満たす65歳以上の高齢者または障害のある人に対し、月1回の最低賃金を保証する。 ルーラ大統領が最低賃金をインフレ率以上に上げれば、この層も自動的にインフレ以上に収入が上がることになる。
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