住まいと学校の断熱事情の最前線、夏は教室が危ない! 住宅は断熱等級6以上が必要、2025年4月からの等級4以上義務化も「不十分」 東京大学・前真之准教授
断熱が必要なのは、冬だけじゃない!「夏の断熱」が大事な理由
部屋の温度差について考えるときには、近年「ヒートショック(急激な気温の変化によって血圧や脈拍が変動することで心筋梗塞や不整脈、脳出血・脳梗塞などの発作を起こすこと)」による事故の報道などを通じて、住宅内の気温差が問題になっていることを思い起こす人もいるでしょう。この住宅内で暖房している場所と暖房していない場所の間で極端な温度差が生じるのは、まず第一に断熱・気密の不足、次に家全体を暖める空調ができていないことが原因です。建物の断熱・気密をしっかり確保して、暖房の熱を家中にしっかり届ける仕掛けが必要なのです。
ヒートショックは冬に起こることが多いのですが、前さんは「これからは、夏を健康・快適に過ごすためにも断熱が非常に重要」だと言います。 「1日の最高気温が35度を超える猛暑日の発生日数を見てみると、1980年代・ 90年代は年間でほぼゼロ日だったのが、2023年には40日を超える地域が出てきています。北海道や東北地方でも熱中症になって救急搬送される人が2023年には2022年の10倍に急増しました。日本はエアコンを使わずにガマンすることが省エネだと考える風潮もあり、暑さ・寒さに耐えて命を脅かす事件が多発しています。すでに温暖化の影響は明らかですが、今後さらに夏の暑さは厳しくなることが予想されます」
さらに深刻なのは、子どもたちが長い時間を過ごす小・中学校です。 「学校建築は本来、換気が命。大きな窓を開けて空気を入れ替え、風を通すことで快適に過ごせるように設計されています。ところが、近ごろは夏期の外気温が高すぎて、窓を開けると室内が熱くなるため、開けられません。断熱が十分に施されてない学校施設では、外の熱がそのまま室内に侵入するため、どんなに冷房を入れても涼しくならない。結果、子どもたちが学習に集中できないばかりか、中には熱中症にかかってしまう子も出ています。子どもたちを過酷な暑さと汚れた空気から救うため、最近では教室を断熱改修する取り組みが広がっています」