「ピンチはチャンス」時代を生き抜いた京都の老舗 “ミシュラン料亭”の本店料理長が全店でもっとも若い理由
桑村「お客さまの身になるには、やっぱり本気でお客さまとして来てもらうのがいいと思うんです。 畳の席の立ち居振る舞い、どこまでひざをついてお茶を出したらいいのか、居心地よくゆったりとした時間を過ごしていただくには、どういうお声がけをしたらいいのか。見えないところにもお客さまの神経はたくさんあるんやな、ということを体験してもらいたい」 これらの多くは、「やらされている(have to )」ではなく「やりたい(want to)」という意識に変えるための仕掛けとして考えました。 桑村「料理人の世界はまだまだ個人主義的なところがあります。『1人の100歩より100人の1歩が大事』だと言っていますが、『100人の1歩』と『1人の100歩』が共存できるのが本当に素敵なチームだと思うんです。 それを実現するためにはどういう人間関係であればいいのか。あるいは、いま苦労しているのはどういう目的のためなのか。それを考えたら『やらされている』のではなく、『やりたいこと』になっていくのでは、と」 冬の間、料亭の庭は苔を養生するため、落ち葉をかぶせておきます。春になるとそれを新入社員も含めたサービススタッフ総出で取り除きます。ピンセットで苔の間のゴミを取り、葉っぱも1枚ずつ拭きます。終わるころには、スタッフ間の垣根が取れたように感じるそうです。
新店舗や新企画、次々に
桑村さんは次々と新しい企画を実現させてきました。たとえば、2015年に全面改装した室町和久傳では「料理の現場」というイベントを年に4回開いています。 参加者は料理人から「何を考え、どのように料理を生み出しているか」という話を聞きながら、魚をさばいたり塩を打ったりする体験をし、最後はアルコールやソフトドリンクとのペアリングコースをいただける、というものです。
2016年にオープンした「丹 tan」は「友人の家」がコンセプト。友人が家にあった食材で心を込めて作ってくれたごはんがいちばんのご馳走ではないか、というひらめきから生まれました。 使う野菜は無肥料・無農薬の自然農法で育てられたもの。店内にはダイニングテーブルを置き、家のようなくつろげる空間に。朝食も食べられるようにし、「フラットで気軽に使ってもらえる店」を目指しました。