「ピンチはチャンス」時代を生き抜いた京都の老舗 “ミシュラン料亭”の本店料理長が全店でもっとも若い理由
桑村「たとえば、新しい料理長は教え方が前の料理長よりも上手かもしれない。人間ってすごく多面的なのに、いまはある側面でしか評価されない時代になっていて、それはすごくもったいない。 適材適所とチャレンジできる環境をつくることが、会社にとってのいちばんの利益になるのでは」
和久傳出身の料理人が活躍する理由
桑村さんが「和久傳リバイバルプラン」を実行して若手を料理長に抜擢した結果、和久傳を去ったベテラン料理長もいました。そのときに残ってくれた料理人たちに恩義を感じ、できることをと考えた末に決めたのが、彼らの独立を応援することでした。 料理人がいつか自分の店を構えることを見据え、店長としての練習ができる環境をつくることにしたのです。 以前は「密室だった」という人事や経理のやり方を変え、管理会計にして店舗ごとの成績が見えるようにしました。 「一緒にがんばろう」と口で言っていてもなかなか浸透しませんでしたが、変えてからは料理部門とサービス部門との壁が一気に崩れたといいます。「人は目標設定によって変わることができる」と実感した出来事でした。
定期的にひらく「若手会」も料理人が切磋琢磨する場になっています。お品書きから器選び、盛り付けまでを考え、桑村さんや料理長、ほかのスタッフの前で料理を披露します。 何かのきっかけで急に伸びる料理人もいれば、先輩のやることを忠実にマネしているうちに自分らしさが出てくる人もいるそうです。 このようにして育った料理人たちが和久傳で活躍したあとに独立して店を構え、「縄屋」(京丹後市)、「木山」(京都市)、「鎌倉 北じま」(神奈川県鎌倉市)など多くの人気店が生まれました。
スタッフが「お客さん」として来店
桑村さんが育てたいのは、もちろん料理人だけではありません。ホールスタッフを中心に構成した「ひめ椿会」では礼儀や挨拶の仕方を再確認したり、勤務歴の長いスタッフの経験談をもとにしたケーススタディをしたりしています。 日本文化の理解につなげるための茶道研修、食材づくりの現場を知るための農業研修もあります。 スタッフには、1年に1回は客として高台寺和久傳や室町和久傳に来店し、食事をする機会を提供します。若いうちは金銭的に訪れにくい店ですが、「お客さん」としての経験は絶対にしておいたほうがいい、と考えているからです。