「ピンチはチャンス」時代を生き抜いた京都の老舗 “ミシュラン料亭”の本店料理長が全店でもっとも若い理由
森づくり開始から10年後には、安藤忠雄さんが設計した美術館「安野光雅館」も完成。安藤さんは植樹の活動に共感して設計を引き受けてくれ、毎年トークショーにも来てくれるそうです。 桑村さんは「母のすごいところは、そういう応援者がたくさんいてくださるということ。私はその余得で生きております」と笑います。 京丹後では地元の農家さんの手ほどきを受けながら無農薬・有機栽培で米も育てています。冬の間は、高台寺和久傳の名物、「間人(たいざ)蟹の焼き蟹」の殻も肥料に加えます。 こうした取り組みが評価され、2021年版から始まった「ミシュラングリーンスター」に高台寺和久傳、室町和久傳、丹の3店舗が4年連続で選ばれました。これは「持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストラン」に与えられるもの。高台寺和久傳はミシュラン二つ星とともに受賞しました。
桑村「うちを卒業した子から『グリーンスター付いてますよ』って聞いて、『えぇ、大変なことになったで』って(笑)。 ただね、無農薬でお米をつくるとか、山で採れたもので一生懸命おいしいものをつくるとか、私が子どものころからしたら普通のことなんです。それが一周回ってこんな時代になった気がします」
「アマチュアリズムを持ったプロでいたい」
和久傳は2020年に創業150周年を迎えました。「常にいろんな人を巻き込みながら大きな実験をやってきた」という桑村さんは、いまも新たな企画を練っています。 アイデアを思いつくのは朝にシャワーを浴びているときが多いそうで、思いついたものはノートに書き留めます。夜中に不安で目がさめることもあるそうですが、「私が楽しいだけで、やるほうは大変ですけどね」と笑います。
ずっと避けたかったという女将ですが、「挑戦する楽しさは与えてもらったのかもしれません」といいます。 桑村「女将はできないけど、『おカネに強い学級委員長』みたいなことは性に合っているな、と思って。それができるようになってからは、自分と経営が一体化したんです。お客さまとの会話も楽しくて勉強になります。女将もおもしろいなと最近、思えるようになりました」 最後に、桑村さんの考える「和久傳らしさ」とはどういうものなのかを聞かせてもらいました。 桑村「お客さまに『心地よい場所だった』と感じていただくために、フラットで穏やかな空気が流れていることを大事にしています。 しつらえや掃除はびしっとしているけれど、そこに『ようこそ』という笑顔があり、お料理も飾り立てず滋味深いものを出す。ものすごくできるアマチュアというか、誰よりもアマチュアリズムを持ったプロでいたいと思っています」 取材・文:山本奈朱香 撮影:松村シナ 編集:鈴木毅(POWER NEWS) デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)