「ピンチはチャンス」時代を生き抜いた京都の老舗 “ミシュラン料亭”の本店料理長が全店でもっとも若い理由
世の中で日持ちがする商品を多く求められるようになるなか、正反対のことをしようと2018年に開いたのは「白(はく)」です。 ここで扱うのは要冷蔵で日持ちもせず、数も限られたものがほとんど。でも、「ひとつ、幸せなものを口にすることで、九十九の幸せに気づく」との思いを込めました。 桑村「自分が『こうなったらいいな』と思うことから店舗をつくったり商品開発をしたりすると結果的に新しいこと、面白いことになり、ブランディングになっています」
お客さんに継続的に来てもらうことを重視していると、自然と売り上げが上がるといいます。さらに、新しい店舗や企画の担当をしたスタッフは「卒業前のベンチャー」経験を積めるため、独立の応援にもなっています。
クレームがあれば飛んでいく
とはいえ、店舗や企画が多くなると目が届きにくくなるのでは? そう水を向けると、桑村さんは「クレームが宝です」と返してくれました。 桑村「絶妙なタイミングでクレームって起こるんです。それを放っておくと不可逆的になってしまう可能性がある。だからクレームがあったら絶対に私が飛んでいくんです」 ただ、桑村さんが率先して解決することはしません。女将になりたてだったころとは違い、いまは桑村さんが発言すると気を使われてしまいます。 だから、発言はできるだけ控え、どのように解決してくれるのかをオブザーバー的に見守るようにしているそうです。クレームには何度も助けられてきたため、「その体験を分かち合わないともったいない」といいます。
創業の地で森づくり
和久傳は2007年から創業の地、京丹後市で「和久傳ノ森」づくりを始めました。これは、前女将で母親の綾さんの願いでした。 丹後を離れるときに地元の人たちが「残ってほしい」と1500筆ほどの署名を集めてくれたことが頭にあり、故郷の人たちと一緒に植樹をしたいとの思いがあったそうです。 生態学者の故・宮脇昭さんの教えを受け、これまでに56種3万本を植えました。いまでは大きな森に成長し、フキノトウや山椒、柿などたくさんの実りをもたらしてくれるようになりました。 森に隣接する工房ではおもたせの店「紫野和久傳」で販売するお菓子や惣菜を製造していて、手作業で商品が出来上がる様子を中庭から見られます。さらに工房にはレストランも併設しています。