83歳・みつはしちかこ「心不全で倒れた後、生前の夫が希望していた<樹木葬>を考えるように。お墓って暗くて怖いイメージがあるけど…」
◆樹木葬を探して 夫は植物や自然が好きな人で、自宅の庭で色とりどりのバラを育てたりするほどでした。 生前から「自分の墓は樹木葬がいいな」と、よく言っていました。 夫の実家のお墓は京都にあって、義母はそこに埋葬されているのですが、「遠いし、京都の墓はちょっと……」ということもありました。 夫が亡くなったのは69歳のときでした。お酒とたばこが大好きで、病院は大キライだった夫。 食道がんが見つかったと思ったら、あっという間に帰らぬ人になってしまったのです。 慌ただしく葬儀を済ませて、その1か月後に、今度はわたしが心不全で倒れ、心肺停止、生死の境をさまようことになったのです。 奇跡的に回復しましたが、そんなこともあって、自分のことも含めてお墓のことを真剣に考えるようになったのです。 そして、夫が生前ことあるごとに話していた樹木葬を探すことに。 ところが、探し始めてみると、一番近いところでも伊豆大島とか(笑)。 そんなに遠いところでは、京都と変わらないなと思っていたところ、わたしの友人が、近くの樹木葬を見つけてきてくれました。
◆風の旅人 さっそく見に行ってみると、小高い丘の斜面に広々と敷地が広がっていて、後ろにはクヌギ林。景色がよくて、すぐに決めました。 斜面に向かってベンチがあり、細い溝にはきれいな水が流れていて、そこにお花を挿せるようになっています。 たくさんの区画があるのですが、ちょうど「風の旅人」という名前の区画が空いていて、自由奔放だった夫にぴったりだと思いました。 お墓自体は、木の近くに小さなプレートがあるだけなんですけどね。 お墓って暗くて怖いイメージがありますが、ここは真逆です。 心地よくて、ベンチに座って、丘からの景色を眺めたり、好きな俳句をひねってみたり……。 生前はもちろんケンカもしましたけど、「風の旅人」に行くと面白かった夫のいいところばかり思い出します。 春にはあちこちに桜が咲いて、桜葬というイベントもあります。 わたしもいつかこの「風の旅人」の夫の隣に眠るつもりです。1区画で10人まで入れるんですよ。 息子のお嫁さんも、気に入って、「わたしも入りたい」と言っていましたが、どうなることでしょうか。 ※本稿は、『こんにちは! ひとり暮らし』(興陽館)の一部を再編集したものです。
みつはしちかこ
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