憲法学者・木村草太×酒井順子 婚姻について学ぶ「世界と日本の違いとは?世界中に婚姻制度がある理由」
婚姻の際、夫婦がどちらかの姓にしなければならない夫婦同氏(どううじ)制。義務づけているのは世界で日本だけだ。同姓にするか別姓にするかを選べる《選択的》夫婦別姓導入を求める声は根強いが、半世紀にわたり進まない。同性婚の法制化は、同性同士の結婚を認めない民法と戸籍法の規定が「違憲状態である」と札幌高裁が判断、次の一歩が期待されているが――。法律婚を望む2人を阻む〈制度〉の課題。酒井順子さんとともに婚姻にまつわるあれこれを木村草太さんに学ぶ(構成:篠藤ゆり 撮影:本社・武田祐介) 【写真】エッセイストの酒井順子さん * * * * * * * ◆事実婚では、婚姻の法的効果は得られない 酒井 私は20年近くパートナーと同居していますが、戸籍上は独身。いわゆる事実婚、という状況です。 木村 法律婚を選択しない理由をうかがっても? 酒井 うーん、「なんとなく」と「面倒臭い」というところでしょうか。結婚できない事情があるわけではないです。ただ、親に許しを得るとか、式をして皆さんにご披露するとか、結婚はかなりの覚悟がないとできないことだけれど、その必要性もなかったというか。法律婚をしていなくて困ったことも、いまのところないんですよね。 木村 憲法第24条1項の前段に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」とありますから、結婚には親の許可も挙式も必要ないんですけどね。 酒井 そこは私のなかに社会通念という呪縛があるんでしょうね(笑)。親の許可も親戚づきあいも不要なら、なおさら届を出さなくてもいいかな、と思っちゃいます。 木村 お子さんがいたら、婚姻届は出したのでしょうか。 酒井 そうかもしれません。子どもがいないと、よけいに法律婚の必要性を感じないですね。
木村 法律婚をするかしないかの一番のポイントは、婚姻による法的な効果がほしいかどうかです。たとえば内縁関係では相手の法定相続人にはなれませんが、婚姻をすれば相続権が認められる。税制優遇の措置などもあります。 酒井 私とパートナーの関係は同棲、あるいは法律的には内縁なわけですよね。でも内縁関係と言われると、なんだか微妙な気持ちになります。複雑な事情があるみたいで。「事実婚」という表現が重宝されるのもわかる気がします。 木村 酒井さんは婚姻による法的効果は求めていないわけですよね。 酒井 そうですね、相続をしたいわけでもないし。フランスで採用されている連帯市民協約「PACS(パックス)」(非婚カップルの保護制度)のようなものがあれば、手続きに前向きになれたかもしれません。 木村 PACSは、婚姻を希望する同性カップルの権利保護が政治的に重要な課題となって、1999年に導入されたものなんです。フランスでは80年代まで同性愛に罰則規定がありましたから。 保守派の本音としては、婚姻制度の格式を下げたくないが、早々に問題は解消したい。そこで婚姻ほど法的効果が高くない、いわば二級婚を作ったわけです。 酒井 結果的に異性カップルからも支持されるようになり、いまや法律婚ではなくPACSを選択する異性カップルが多いと聞きます。どうしてでしょう。 木村 フランスの婚姻はかなり面倒ですから。結婚する10日くらい前から役所で公示しなくてはいけなかったり、離婚する際は裁判所の許可が必要だったり。自然と法律婚が敬遠され、PACS利用を望む異性カップルが増えていきました。 一方で同性カップルからは「格式の低い結婚ではなく、平等に扱ってほしい」と、同性婚の法制化を求める運動が起きた。その結果、同性カップルに婚姻が開放され、異性カップルにPACSが開放されて、どちらの制度も利用できるようになったんです。
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