憲法学者・木村草太×酒井順子 婚姻について学ぶ「世界と日本の違いとは?世界中に婚姻制度がある理由」
◆日本の婚姻制度は使いやすくできている 酒井 なるほど。木村さんは、PACSの一番《お得》な部分はなんだと思いますか。 木村 結婚すると相手の親や親類といった係累との関係が生まれますが、そういう関係が生じないことでしょうか。あ、酒井さんの目がキラキラしてきましたね。(笑) 酒井 ちょっと魅力的だなあ(笑)。法律婚は、どうしても当事者だけの関係性で済まないじゃないですか。だから日本でも選択しない人が増えている気がします。 私も、たとえば相手の家に法事があるときはお供えを託しますが、出席はしません。私の実家に対してもその距離感でいてほしいですし。根本的な話ですが、私、世界中に婚姻制度があることに、かねてびっくりしていて。 木村 人は生まれた瞬間、誰が母親かはわかりますが、父親はわかりづらい。そこで父親を決めておく仕組みが必要になった。それが当初の婚姻制度だという説明が一般的ですね。 共同生活を営むうえで便利な効果を付与した結果、必ずしも子どもを持つわけではない人も制度を利用するようになっていった。 酒井 「本当に俺の子なのか」という男の不安がベースにある。
木村 ただ、日本は生まれてくる子どもの97%が婚内子ですから、先進国としては婚姻制度が崩壊していない珍しい国でしょうね。ヨーロッパだと約4割が婚外子です。 酒井 欧米で制度が崩壊しつつあるのは、婚姻が面倒だから? 木村 そうだと思います。日本で婚姻制度の利用率が高いのは、端的に言えば使いやすいからなんですよ。たとえば裁判所を通さないと離婚できない仕組みの場合、互いに弁護士費用が100万円単位でかかってしまう。 それに比べれば日本の離婚は簡単なほうだし、争うことがなければ紙1枚で済む。結婚も離婚も紙1枚で済んで、届に不備がなければ本人でなく代理人が提出してもいい。相続権などの権利も得られる。かなり便利に作られているとは思いますね。 酒井 日本での「結婚」は面倒だとずっと思ってきました。でも面倒に感じていたのは、結婚によって社会的に課される柵(しがらみ)に対してなのかもしれませんね。世界と比べると日本の結婚は意外にもライト。 木村 民法752条に「夫婦は同居し」と同居義務規定がありますが、別に同居しなくたって誰にも叱られませんしね。 では日本の制度で外せないのは何かというと、夫婦の「同氏」。つまり戸籍上の姓が同一であることが求められる点くらいなんです。 (構成=篠藤ゆり、撮影=本社・武田祐介)
木村草太,酒井順子
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