男性体臭問題が紛糾したが…じつは女性は「ほぼ100%」男性の体臭が嫌いだという「衝撃的な事実」
男の体臭の正体はアンドロステノン
ライオンの研究で、男の体臭の正体は判明した。アンドロステノンという(これは2004年当時の話。現在、さらに知見は広がっているので、後述する)。 少年の汗はさわやかだが、中年の汗は淀んでいる。これはたとえ話ではなく、事実だ。10代と40代では汗の組成が違う。10代の汗はただの塩水だが、中年の汗には男性ホルモンの一種、アンドロステロンの量が急増する。 アンドロステロンが皮膚の表面にいる細菌に代謝され、アンドロステノンとなる。このアンドロステノンが男の臭いの原因だ。アンドロステロンは男女共に分泌されるが、分泌量は男性が女性の数十倍である。 アンドロステノンは単独でも臭うが、他の物質から発生する体臭=分解臭を増強する働きもすることがわかっている。分解臭とは、皮膚常在菌が垢や皮脂を分解して作る低級脂肪酸やアミン類の臭いのことだ。低級脂肪酸は酸っぱい臭い、アミン類は尿のような生ぐさい臭いだという。 しかもアンドロステノンを男性が臭いを判別できる濃度の10分の1、まったく臭わない濃度で汗の分解臭に加えたところ、男性は気がつかなかったが、女性は過敏に反応したという。 川口ゆりさんには同情する。この事実がもっと世間に広く知られていれば、あのような炎上騒ぎにはならなかったかもしれない。
アンドロステノンの匂いは嫌われる?
男性特有の体臭、アンドロステノンの匂いを女性は嫌う。 ところがだ。1980年1月の古い論文(※1)に、歯科センターの待ち合わせ室で行われた実験が掲載されていた。待合室の椅子にアンドロステノンを噴霧したイスと何もしなかったイスを用意、訪れた患者のイスの座り方にどのような違いがあるのかを調べたのだ。 対象となったのは540人で、もちろん何も知らずに歯の治療に来た患者ばかりである。記録した受付嬢も、何のための実験を知らされておらず、座席表を機械的にチェックしただけだ。論文によれば、「女性がスプレーされた座席に座る頻度が増加」した一方、「男性はこの場所に座る頻度が減少した」という。 この実験から、男性の匂いを嫌う一方で、無自覚でなら男性の匂い=アンドロステノンを好む女性は多いことになる。 また論文「女性と男性の性交経験によるアンドロステノンの香りの心地よさ」(※2)によれば、若い男女にアンドロステノンの匂いを嗅がせ、アンドロステノンの匂いを判別できた女性のうち、性交経験者は、未経験者よりも匂いを不快に感じなかったという。 性的体験が男性の匂い成分の好悪を変化させる? 次は2017年のマウスを使った実験(※3)だが、メスの嗅覚の反応はオスよりも明らかに速く、強い。メスはオスよりも鼻がいいのだ。そして興味深いことに、マウスの性腺を除去するとメスは嗅覚の反応が鈍くなり、オスは嗅覚が鋭くなり、互いが同じレベルになっていく。 性ホルモンと嗅覚の鋭敏さは密接に結びついているらしい。性ホルモンとは、言い換えれば生殖だ。メスがオスよりも嗅覚が鋭くなければならない理由は、生殖にあるのかもしれない。 ※1「Effect of androstenone on choice of location in others' presence」(M.D.Kirk-Smith and D.A.Booth Department of Psychology, University of Birmingham) ※2「Pleasantness of the Odor of Androstenone as a Function of Sexual Intercourse Experience in Women and Men=女性と男性の性交経験によるアンドロステノンの香りの心地よさ」(Archives of Sexual Behavior Volume 41, pages 1403?1408, (2012)) ※3「Differences in peripheral sensory input to the olfactory bulb between male and female mice」(Sci Rep. 2017 Apr 26:7:45851)