『まる』荻上直子監督 自分が興味のある人から映画を発想する【Director’s Interview Vol.446】
荻上直子監督が以前から興味を持っていた人物“堂本剛”。彼と一緒に映画を作りたい。映画『まる』は、荻上監督のそんな希望からスタートした。内容は、偶然描いた「〇(まる)」にとらわれていく男の物語。荻上監督らしいユニークな視点だが、この物語と堂本剛の相性が意外な面白さを醸し出していく。綾野剛、吉岡里帆、柄本明、小林聡美と、周りを固める豪華俳優陣も何だかとても楽しそう。荻上監督はいかにして本作を作り上げたのか。話を伺った。
『まる』あらすじ
美大卒だがアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをしている男・沢田(堂本剛)。独立する気配もなければ、そんな気力さえも失って、言われたことを淡々とこなしている。ある日、通勤途中に事故に遭い、腕の怪我が原因で職を失う。部屋に帰ると床には蟻が1匹。その蟻に導かれるように描いた〇(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名になる。突然、誰もが知る存在となった「さわだ」だったが、段々と〇にとらわれ始めていく…。
堂本剛ありきの企画
Q:本企画は堂本剛さんありきで始まったそうですね。 荻上:昔作った『かもめ食堂』(06)や『めがね』(07)も、小林聡美さんありきの企画だったので、今回は久しぶりの当て書きですね。 Q:「まる」にとらわれる男という発想はどこからきたのでしょうか。 荻上:堂本さんのかつてのインタビューを読んでいると、若い頃はすごく忙しくて、理不尽な仕事も多く、自分が一体何者なのか分からなくなった時期があったと書かれていました。そのことに悩まれて、精神的にもつらかったけれど、“音楽”との出会いによって自分を取り戻したと。そこから今回の話を思いつき、“自分”という人が分からなくなる話を書こうと決めました。 Q:沢田のアーティストという職業はどの段階で決まったのでしょうか。 荻上:〇(まる)を描いてその〇が有名になってしまい、自分が自分でなくなるーー。みたいなところがまずありました。最初は全然違う職業で進めていたのですが、堂本さんと話し合いを重ねるうちに職業が変化していき、最終的にアーティストに落ち着きました。 Q:堂本さんとはディスカッションを重ねられたとのことですが、具体的にどのようなことを話されたのでしょうか。 荻上:堂本さんありきの話だったので、堂本さんという人をよく知った上で、それを脚本に落とし込みたかった。最初に書いた大まかなストーリーを読んでいただき、物語のことだけではなく色んな話をしました。「何に熱中しますか?」「何に対して怒りを感じますか?」みたいな質問をしても、それに対して堂本さんはすごく真剣に答えてくれる。それらを受け取りながら、脚本を書き直していきました。堂本さんは本当に忙しいので、移動中の車の中からオンラインミーティングをしたこともありました。 Q:「自分の興味がある人を元に映画を撮りたい」ことはよくあるのでしょうか。 荻上:あります、あります。小林聡美さんのときもそうでしたが、その人のことを考えていると、映画が作りたいというところに行き着くんです。
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