『まる』荻上直子監督 自分が興味のある人から映画を発想する【Director’s Interview Vol.446】
オリジナル脚本の難しさ
Q:堂本さんは音楽も担当されていますが、音楽作りはいかがでしたか。 荻上:打合せをした後、すぐに作ってきてくれました。それでそのまま決まった感じです。堂本さんとしては、今回の映画では音楽はそんなに流れてなくても良いと思われたようで、私も同じ考えでした。必要なところだけ何か(音楽が)あったらいいなと思っていたので、それを理解した上で、映画に寄り添った曲を作ってくれました。さすが才能のある方だなと思いましたね。 Q:今回は堂本さんありきでの企画でしたが、自分が企画提案することと、決まった企画を依頼されることとどちらが多いのでしょうか。 荻上:大体、前者ですね。自分で脚本を書き、それをプロデューサーに見せて、やってもらえる人と一緒にやる感じです。 Q:監督としてのオファーもあるのでしょうか。 荻上:昔は「この原作でどうですか?」と話をいただいたこともありましたが、お断りすることが多かったので、最近はあまり来なくなりましたね(笑)。今でもお声がけいただくこともありますが、さすがに原作モノはあまり来ないですね。 Q:オリジナル脚本は企画を通すのが難しそうですね。 荻上:オリジナル脚本は絶対に面白いという保証もないし答えもない。やっぱり難しいですね。また、歳を取るにつれて自分が書こうとするテーマや主題も変わってきています。どうしても世の中に対する不満みたいなものがたくさん出てしまう。若い頃とは違うものに目がいくようになりました。 Q:監督デビューして20年以上が経ちました。比較的コンスタントに映画を撮り続けてきている印象がありますが、デビュー当時と今とで何か変わってきていますか? 荻上:撮影現場があまり変わってないのは良くない感じがしますね。遅くまで撮影することに慣れてしまっているのですが、そういう体制は変わっていった方が良いですね。また、若い頃は自分より年上の俳優さんと一緒にやることが多かったので、ものすごく緊張するし、何を言っていいのか分からなかった。それが最近は、私より年下の俳優さんが多くなり、昔ほどは緊張しないで済むようになってきた。それでもやっぱり自分は下手だなぁと、毎回反省しています。 Q:影響を受けた監督や好きな作品を教えてください。 荻上:フィンランドのアキ・カウリスマキがすごく好きですね。昔のコーエン兄弟やジム・ジャームッシュも大好きです。最近、カウリスマキの新作で『枯葉』(23)がありましたが、全然変わらないですよね。変わらないからといってつまらないわけではなく、いつもちゃんと見せてくれる。面白いなぁと思います。 監督/脚本:荻上直子 1972年2月15日生まれ、千葉県出身。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年に帰国。04年に劇場デビュー作『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。06年『かもめ食堂』が単館規模の公開ながら大ヒットし拡大公開。北欧ブームの火付け役となった。以後ヒット作を飛ばし、17年に『彼らが本気で編むときは、』で日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞他、受賞多数。近年の監督作には『川っぺりムコリッタ』(22)、第33回日本映画批評家大賞・監督賞を受賞した『波紋』(23)などがある。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『まる』 10月18日(金)ロードショー アスミック・エース © 2024 Asmik Ace, Inc.
香田史生
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